子どもに会うのが怖い?2ダースも子どもがいる精子ドナーの不安

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2015.09.19

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夫の精子で子どもをつくれない夫婦のためだけでなく、精子バンクはさまざまな状況下で利用されています。シングルマザー希望者の増加や、同性婚を認める国が増えているという時代背景も相まって、利用者が増加傾向にあるのです。

海外では、精子提供を受けて生まれた子どもの“出自を知る権利”をめぐり、議論がなされてきました。

なかでもオーストラリア・ビクトリア州は、生殖補助医療の法制度化に力を入れて取り組んでおり、2013年にはドナーの匿名性を廃止し、子どもの“出自を知る権利”を認める法改正が議会に持ち込まれました。

『The Age』では、この政策と個人情報公開に伴うドナーへの措置をめぐり、2ダース以上の子どもを持つドナー3人と医師の反応が取り上げられています。

■2ダース以上の子どもを持つドナーの不安:ケース1

24人以上の子どもを持つドナーたちは、「1998年以前に精子提供によって生まれた子どもは、ドナーの許可なしで名前や誕生日などの個人情報について知ることができる」という政策に対して法的手段に訴えると主張しています。

あるシニア学生ドナーは、会う人会う人が精子提供をした子どもではないかと、不安を抱いているといいます。「自宅の玄関に、父親の姿やお金を求めて人が訪れるのが怖い」と、オーストラリアのメディア会社、フェアファックス・メディアに話しました。

■2ダース以上の子どもを持つドナーの不安:ケース2

60代のあるドナーは、子どもができない夫婦に対して気の毒に思う気持ちから、80年代に幾ダースもの精子を提供。

男性夫婦は彼等の間にできた子どもにはこのことを話しておらず、最近になってようやく、自分の精子が12世帯に20人以上の子どもを誕生させたことを知りました。

彼の妻が政府の計画についての記事を偶然見つけて以来、夫婦は潜在的プライバシーの侵害に憤りを感じ、ドナーは慎重な方法をもって個人的に説明を受けるべきだと主張。彼等は精子提供をしたエプワース病院を訴えることも考えていると言います。

彼は厚生大臣であるジル・ヘネシー氏に当てた手紙で、9/4までであったこの計画に対する審議期間を2016年の3月にまで引き延ばすよう政府に求めました。

同時に彼は、すべての精子ドナーがこの計画について把握し、公平な結果を得られるようにするために利害関係者名簿の作成を要求したそうです。

政府は、子どもは医学的な理由であろうとなかろうと、自分は誰から生まれたのか、ドナーと連絡を取りたいと思うことは当然であり、自らの遺伝子について知る権利があると主張します。

ドナーの個人情報公開にあたり、政府が設けたディスカッション・ペーパーには、ドナーに対する措置が示されています。

ドナーは提供を受けた子どもから接触の希望があった場合、それ受け入れるか、またどのような手段でそれを行うかなど、結論を出すために2ヶ月の猶予が与えられるという内容。

もしもドナーが子どもを拒否し、それでも子どもが接触をはかりたいといった場合、子どもには9,000ドル近い罰金が科せられるというものです。

■2ダース以上の子どもを持つドナーの不安:ケース3

しかし、この政策に怒りを感じているあるドナーは、それでもまだ不充分だと語ります。個人情報がわかってしまえば、インターネットなどあらゆる方法で見つけ出すことが可能であり、接触を拒否された人間が起こす行動は恐ろしいものだとも。

また、この罰金制度は提供を受けた子どもだけでなく、その子どもの母親にも適用されるのか疑問を抱いているといいます。ヘネシー氏は、フェアファックスに発表した声明のなかで、接触を望まないドナーへの接触を試みる人は、誰であろうと罰が科せられるだろうと述べました。

体外受精のパイオニアであるギャブ・コヴァーチ氏は、ドナーの匿名性が失われるこの法律が施行されれば、自分のドナーを知りたい子どもからの電話が殺到するとして、反対意見を支持しています。

精子提供の際に、ドナーに対して自分たちが匿名性を約束した誠意が、遡及的に政府によって崩されてしまうことを申し訳なく思っていると語るコヴァーチ氏。もしも誰かが玄関のドアをノックして、“こんにちは、お父さん”とやって来たら、今まで彼等の間で保たれていた関係は崩壊する可能性があると懸念を露にしています。

“正解”のない、ドナーと子どもの関係をめぐるこの問題は、今後も議論が続きそうです。

(文/スケルトンワークス)

 

【参考】

Wealthy sperm donor fears contact from more than two dozen offspring-The Age

南貴子(2010)『人工授精におけるドナーの匿名性は医師の法制度化の取り組みと課題−オースとラリア・ヴィクトリア集の事例分析を中心に−』家族社会学研究会

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