「貧困」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべますか?
ホームレス? 段ボールハウス? 生活保護?
いずれにしても、自分にはあまり関係ないことだと思っている人が多いのではないでしょうか。
本著『すぐそばにある「貧困」』(大西連著、ポプラ社)の著者である大西さんは、まだ20代。本格的に生活に困窮する人の支援活動をはじめるようになって5年。現在の活動に少なからず影響を与えたのは、学生時代の偶然の”路上”の人たちとの出会いだったといいます。
そこから、「貧困とはなにか、なにが自分たちと違うのか」と考えていった先に、現在の彼と本著があります。
■日本の「貧困」は相対的貧困
そもそも、「貧困」ってなんでしょう? まず、貧困の中身を知っておく必要があるかもしれません。
たとえば「ホームレス」とひとことでいっても、その実態は多様化しているのが現在の状況。本著によると、厚生労働省の「ホームレス概数調査」では実際に路上生活をしている「ホームレス」の数は減少しています。
これは各種の支援制度や支援団体の活動の広がりが要因ですが、いまは「新しいホームレス状態」の人の数が増加し、より見えづらい形で日本社会に存在しているというのです。
「新しいホームレス状態」とは、お金のあるときはネットカフェに泊まったり、脱法ハウスや安宿で生活する人たち、さらにはニート・引きこもりなど、住居喪失予備軍も含まれます。
27ページに掲げられたOECD加盟国の相対的貧困率のグラフは、驚きに値します。日本の相対的貧困率は、かなり上位に位置しているのです!
日本人の6人に1人がそれに当たるという相対的貧困とは、国民一人ひとりを所得順に並べたとき、真ん中の人の値に満たない人の割合を指すそうです。
2012年でいうと、月に使えるお金が約10万円以下の人がそれにあたり、割合では、国民の16.1%がそれに相当します。数字でみると、「貧困」のイメージがぐっと身近になったのではないでしょうか。
■女性が貧困に陥るきっかけとは
人が貧困状態に陥るきっかけとしては、病気やケガなどの他に、人間関係のもつれから精神的な健康を害することもあるといいます。
たとえば本著のなかでは、DV(ドメスティックバイオレンス)夫から逃れて実家に戻ったものの、今度は精神疾患のある弟の暴力に対する恐怖感から不眠、不安神経症を患い、働けなくなってしまった女性が登場します。
弟の障がい年金受給のため、生活保護は受けられず、かといって、弟は年金を家に入れないので生活は苦しく、どうにも身動きがとれなくなってしまったそうです。
女性の貧困を考える場合、背景にDVの問題があるという指摘があります。DVは身体的暴力だけとは限らず、精神的、性的、経済的、社会的暴力などもあります。それらが重なって、貧困に追い込まれざるを得ないのが実態なのです。
「貧困」ということばだけではピンとこなかったかもしれませんが、経済的に自立していないためにDVな環境から逃れられなかったり、子どものいることが就労の不利になっていたりするなど、そういった女性の状況は想像することができますよね。
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貧困とはなにか、支援とはなにか。
大西さんは迷いながらも前を向いて進んでゆく、とあとがきを結んでいます。「きっと社会を変えていくことができると信じて」
より多くの人が「貧困」を自分たちの問題としてとらえ、考えはじめた時、社会は変わりはじめるのかもしれません。
そのためには、まず、知ることがなによりも大事だと気づかせてくれる一冊です。
(文/Kinkiii)
【参考】