日本一の料理レシピ検索サイトである「クックパッド」のトレンド調査ラボ、「たべみる」をご存知でしょうか?
クックパッドの検索データをもとに、料理をする人が「なにを求めているか?」というニーズの変化をタイムリーに、しかも地域別に捉えるデータサービス。
たとえば大手スーパーのバイヤーが、「たべみる」の検索人気ワードにランクインしている商品を積極的に展開した結果、売り上げが大幅に増加したというようなことが現実的に起こっているのだそうです。
クックパッドの検索データに基づいているだけに、タイムリーに検索されているワードを地域別に把握し、売り上げ向上に活用できるというわけです。
そんな「たべみる」の事業責任者による著作が、きょうご紹介したい『「少し先の未来」を予測する クックパッドのデータ分析力』(中村耕史著、日本実業出版社)。
「たべみる」リニューアルの経緯を通じて著者が実感した、データ事業の可能性についての考え方を記した書籍です。
でも実際のところ、「たべみる」に蓄積されたデータからは具体的にどのようなニーズがわかるのでしょうか?
そのことについて著者は、「すき焼き」についての興味深いエピソードを紹介しています。
■実はすき焼きは日常的に作られている
すき焼きは一般的に、お祝いごとなどの「ハレの日」に食べるもの。そして、すき焼きといえば牛肉を思い浮かべる人は多いはずです。
事実、すき焼きの検索ピークは年末年始なのだそうで、そんなところからもすき焼きがハレの日のメニューであることがわかります。
ところがデータを分析していくと、年末(12月末の週)以外でも、すき焼きの検索頻度は常に一定なのだとか。
つまり、すき焼きは日常的につくられているということがわかるわけです。
しかも「すき焼き=牛肉」というイメージに反し、組み合わせ語を見てみると、「豚(肉)」と合わせて検索される頻度が牛肉との組み合わせよりも多いのだといいます。
また、「フライパン」との組み合わせも多いのだとか。
つまりはこういったことから、すき焼きは日常的なメニューとして食べられており、さらに「豚肉を使い、フライパンで簡単につくれるすき焼き」であることが推測できるわけです。
ちなみに12月最終週は、「すき焼き×豚肉」「すき焼き×フライパン」のマッチ度は低下する傾向にあるのだとか。
一般的なイメージと現実との間には、大きな差があるということです。
■大雪の日にはすき焼きを食べる傾向が
さらに、「これは今後さらなる検証が必要かもしれない」と前置きしたうえで、著者はもうひとつおもしろい現象を紹介しています。
2014年2月に東北地方から関東、東海地方一帯が大雪になったことがありましたが、そのとき、すき焼きの検索数が他のメニューにくらべて上昇する現象が見られたというのです。
つまり、大雪の日にはすき焼きを食べようと考えた人が多かったということ。
さて、ここにはどのような意味があるのでしょうか?
■すき焼きは豚肉があれば簡単に作れる
前述したように、すき焼きは「ハレの日」のごちそうであるだけではなく、日常的に食卓に登場するメニュー。
そして、「豚肉を使って、フライパンで簡単につくれるすき焼き」が定番化している。
だとすれば、次のように解釈できるのではないだろうかと著者は分析しているのです。
家庭の冷凍庫には特売の日に購入した豚バラなどの肉がストックされていて、同じように豆腐も常備されている。
そして大雪の日は買いものに行きづらいので、ストックしてある食材を使ってつくれるものを検索する。しかも、あるもので満足できるメニューをつくりたい。
そのような発想が、すき焼きの検索結果につながったということです。
ならば、たとえば大雪の予報が出たら「買いものに来られないときには、おうちですき焼きがおすすめ!」などという店頭POPをつくり、牛肉や豚肉、すき焼きのたれなどをまとめた棚をつくれば商機が生まれるということになります。
このように「小さな変化」を発見し、仮説を立てやすいのも大規模な検索データならではの特徴だと著者はいいます。
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仮説をもとにデータを多くつくり、それを素早く実行して検証する。それは、生活者に支持される魅力的な売り場づくりにつながるということ。
でもスーパーに限らず、こうした方法論は、さまざまなビジネスに応用することもできそうです。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】