『「ありがとう」と言われる接客・販売の教科書』(川﨑真衣著、あさ出版)は、接客を筆頭としたコミュニケーションについての大切なことを解説した書籍。
著者は、学生時代のテーマパークでのアルバイトをスタートラインとして、さまざまなサービス業に携わってきたという人物。
高いプロ意識が要求される東京ディズニーランドのツアーガイドキャスト経験もあるのだといいますから、まさにサービスのプロフェッショナルといえそうです。
そんなキャリアを生かし、現在はさまざまな企業に向けた研修、講演、コンサルティングを通じ「仕事を楽しめる人材育成」をサポートしているのだそうです。
■「ありがとう」といわれる努力をする
そんな著者は本書の冒頭で、「お客様から『ありがとう』の言葉をいただくために仕事をしましょう」と提案しています。
意識しておくべきは、「ありがとう」とは、お客様から自然発生的に出てくるのを待つものではないということ。
はじめから「ありがとう」といわれるための努力をすることによって、意図的に生み出すものだというわけです。
そして結果的には、自分自身が最高に気持ちよくなれる。だからこそ、そうなるために仕事をしましょうというのです。
■「ありがとう」といわれるためには?
では、「ありがとう」といわれるためには、どのような人になればいいのでしょうか?
たとえば、
「気持ちのよい挨拶ができる人」
「どんなお客様の要望にも笑顔で応えられる人」
「いろんなことに気のつく人」
こういう単純なことでいいのだとか。しかし、そこにもうひとつ、次の要素を付け加えるべきだともいいます。それは、「ナンバーワンになる」ということ。
■職場の人から必要とされる存在になる
「ナンバーワンになる」というと、マイナスの印象を持つ人もいるかもしれません。一番になるために周囲を蹴落としていく、ガツガツしたイメージ。
しかしそうではなく、この場合のナンバーワンとは、職場で上司に、部下に、仲間に、認められて必要とされる存在になるということ。あるいは、お客様に選ばれる人になること。
そうなって初めて、「オンリーワン」になれるという考え方です。
けれど、どうすれば認められ、必要とされ、選ばれるのでしょうか?
■「ありがとう」といわれる環境つくり
それは、どんなに小さなこと、狭い世界でもいいから、そのなかでナンバーワンになること。
そうなれてこそ、上司に、部下に、仲間に、お客様に認められ必要とされる唯一の存在、「オンリーワン」になるというわけです。
ナンバーワンになる努力をすることで、「あなただから頼みたい」「あなただからできる」と思われる可能性が生まれる。
つまり、「ありがとう」といってもらえる環境を自分から積極的につくることができる、最良の目標設定だということです。
次にすべきは、自分にとっての「ナンバーワンの目標」を立てること。職場などで自分がナンバーワンになりたいこと、なれそうなことを見つけ、それを実現していく。
難しいことのようにも思えますが、ナンバーワンになり努力をし、誰にも負けない部分を磨いていくことによって、やがて「本当のオンリーワン」になれるといいます。
ひとついえるのは、ナンバーワンといっても、ものすごく小さくて狭い世界だということ。
でも、それでいいのだと著者は主張します。逆にいえば、小さな世界だからこそ、一番になれる。それが大切だということ。
■「できないかも」と消極的にならない
しかしナンバーワンを目指す過程においては、目の前に大きな壁が立ちはだかるもの。
その壁を越えるか壊すかしないと先には進めないので、「無理だ」と消極的になりがちです。
でも、ここで忘れるべきでないのは、その壁が「越えられるから」そこにあるのだという考え方。
そして、ナンバーワンになるために、最初からうまくやろうとしないことが大切。
「できないかもしれない」と思って、消極的になってはいけないということです。
もっと単純化するなら、「自分が無理だと思わなければいい」だけの話。
「ありがとう」といわれるために、ナンバーワンになる覚悟を自分自身が決めること。それが、なによりも重要だというわけです。
*
すっきりとして読みやすいので、要点をすぐにつかめるはず。もしも接客やコミュニケーションのことで悩んでいるなら、読んでみるといいかもしれません。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※川﨑真衣(2015)『「ありがとう」と言われる接客・販売の教科書』あさ出版