きょうご紹介したいのは、『恋に嘘、仕事にルブタンは必要か? 心が楽になる57の賢人の言葉』(レベッカ・ラインハルト著、小嶋有里訳、CCCメディアハウス)。
不思議なタイトルですが、内容もまたユニーク。
「女の生き方」「教訓」「人間関係」「仕事」「男と女」「家族」「健康」の7カテゴリーについての考え方が解説されているのですが、そのベースになっているのは先人たちの考え方なのです。
そう、カント、デカルト、プラトン、アリストテレス、孔子などなどの思想を、私たちの生活のなかに落とし込んでいるということ。
つまり、日常生活のさまざまな場面で役に立つ、哲学的な考え方を伝授してくれる一冊。
■哲学は世間一般のイメージより難しくない!
ただ、哲学というとそれだけで難しそうなイメージがあるのも事実だと思います。しかしこのことについて、著者は次のように述べています。
「秘密をこっそり教えると、哲学は決して消化不良を起こさせるようなものではありません。時に楽しく、そして時にちょっぴり魅惑的なものでもあります」
だから気負う必要はなく、前から読み始めても、1日1ページでも、好きなように読み進めることが可能。
Chapter01「女の生き方」から、数字にまつわるキーワード「時間」を引き出してみたいと思います。ここでモチーフになっているのは、初期ロマン派の有名な詩人であるノヴァーリスの思想です。
■製塩所で働いていた病弱な詩人ノヴァーリス
最初に、ノヴァーリスことフリードリヒ・フォン・ハルデンベルクについての解説を見てみましょう。
フリードリヒ・ヴィルヘルム・シェリング、ルートヴィヒ・ティーク、シュレーゲル兄弟らと並び、初期ロマン派を代表する詩人のひとり。
病弱だった彼は、製塩所での仕事と並行して個性的かつ哲学的な作品を書き続けたことで知られています。
特に『花粉』(邦訳『ノヴァーリス作品集 第1巻』に収録、ちくま文庫)は評価の高い作品。
ちなみに、ドイツの偉大な詩人であるフリードリヒ・シラーの看病をした際に感染したと思われる肺結核で世を去っています。
そんなノヴァーリスは、実体のない「時間」についてどのような考え方をしていたのでしょうか?
■時間は思考を吸い取る恐ろしいモンスター!
スケジュールはきっちりと守るべきものですが、それはなぜでしょう?
1秒たりとも無駄にはしたくないから? それとも30分ものんびりすることに耐えられないくらいせっかちだからでしょうか?
いずれにせよ、時間はどんなに節約したとしてもまったく手元には残ってくれないもの。でもそれは自分のせいではなく、「時間がモンスターだから」だと著者は表現しています。
たとえば、「睡眠時間が短い」とか、「食べる時間がないほど忙しい」という人がいます。彼らは、自ら嬉々としてモンスター、つまり時間の格好の餌食になっているということ。
同じように、飛行機を乗り継いではホテルからホテルへと渡り歩き、休暇も取れないビジネスパーソンの脳内にも、やはりモンスターが棲みついているもの。
モンスターを前にしては、ビジネスクラスのゆったりとした席に座っていてもまったく無意味。ノートパソコンもスマートフォンも、モンスターを退治することはできないといいます。
つまりモンスターは、人の夢を食べて生きていくバクのように、あらゆる思考を吸い取ってしまうということ。
しかし、反対に「時間の効率はまったく気にしない」とか、スマホをちらっと見ることさえ耐えられないというのんびりした方もまた、モンスターからは逃れられないのだと著者。
夏休みなどを待ち焦がれ、身もだえするような終わりのない時間を経験することは誰にでもあるもの。
問題は、待てば待つほど、その永遠がさらに永遠になるような、終わりのなさです。
それもまた、モンスターが、来るべき未来を遠くへ遠くへと追いやってしまっているということだというのです。
■ノヴァーリスが残した時間についての言葉
さて、ここでようやくノヴァーリスの言葉が登場します。彼は時間について、どのような表現を残しているのでしょうか?
「人生は長くあってほしいところで短く、短くあってほしいところで長い」
これはまさに、時間のことを的確にいい表した言葉だとはいえないでしょうか?
少なくとも、時間が持つこのような性格を理解しておけば、「時間がない」、あるいは「休みまではまだ遠い」などと嘆くことは少なくなりそうです。
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装丁もおしゃれで、しかもコンパクトなので持ち運びにもストレスなし。バッグのなかに入れておき、空いた時間に好きなページを読んでみるのもいいと思います。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※レベッカ・ラインハルト(2015)『恋に嘘、仕事にルブタンは必要か? 心が楽になる57の賢人の言葉』CCCメディアハウス