タイトルからも明らかなとおり、『あなたの「影響力」が武器となる101の心理テクニック』(神岡真司著、フォレスト出版)は「影響力」をテーマにした書籍です。
著者によれば、「影響力」はビジネスシーンにおける交渉の場で力を発揮するもの。そして、自分自身に大きな見返りをもたらすもの。そのような考え方に基づいて書かれているわけです。
しかし、そもそもこの場合の「影響力」とはなにを指しているのでしょうか?
この疑問についての答えは、「自分自身の行動の変化によって、相手の行動に影響をおよぼす力のこと」だというもの。
たとえば、ちょっとした言葉の使い方、表情や動作を見分ける力、人の習性の理解、そして、どんな振る舞いをすれば相手にどんな影響がおよぶのか。
それらを把握することこそが、影響力を呼び起こす重要な段取りなのだという考え方です。
■影響力が生み出すメリット
そして著者は、影響力を上手に行使することによって、次のようにさまざまな効果が期待できると主張しています。
・自分の正直な気持ちを他人に上手に伝えられるようになる
・自分の心と体を、他人からの理不尽な攻撃から守れるようになる
・人間関係の対立から縁遠くなる
・合理的な判断によって、周囲からの協力が得やすくなり、仕事の効率が上がる
・人格が向上し、周囲から頼られ、認められる存在になる
・男女間の感情のすれ違いを防げる
・邪悪な人物からコントロールされることなく、自律的な行動ができるようになる
・「お金」「人望」「社会的評価」がついてくるようになる
いいことずくめですが、これが「影響力」を武器として身につけると起こってくる変化なのだといいます。
また、そんな本書では、相手を意のままに動かすための「心理誘導トリック」のひとつとして、“数字”の効能を説いています。
「意のままに動かす」という表現は誤解を生みそうでもありますが、つまりはこちらの望みに近い状態へと誘導するということ。
しかもその考え方は、意外なほどシンプルなものでもあります。
■数字を使うと説得力が増す
「数字は明快でウソをつかない」
「数字は正確」
「数字は客観的」
一般的に、数字にはこのようなイメージがあります。
そんなことからもわかるように、数字を使うと話に説得力が増すもの。広告コピーの表現がいい例です。
たとえば栄養ドリンクの効き目を強調したいのだとしたら、「タウリン1グラム配合!」ではなく、グラムの単位をミリグラムに置き換え、「タウリン1,000ミリグラム配合!」と訴求した方が効果的。
同じように「食物繊維3.2グラム配合!」ではピンときませんが、「レタス10個分の食物繊維!」といえば、野菜の健康的なイメージによって訴求力が増すことになります。
また、「中国の人口は13億7,000人」というよりも、「世界人口の約2割」といった方がインパクトは大きくなるでしょう。
■数字をうまく使いこなそう
つまりはこのように数字をうまく使いこなすことによって、さまざまな効果を高めることができるのです。
さらに見ていきましょう。
「失敗の確率は10%しかありません」というよりも、「成功率90%以上は確実です」という方が説得力は高まります。
3万円の浄水器を36ヶ月(3年)の分割払いで売り込む場合、「1日たった28円で一生分の健康が帰ると思えば安いものです」とアピールすれば、トークにはいっそうお得感が生まれます。
「利益率が1%から2%に上がりました」というよりも、「利益が2倍に増えました」の方が注目を集めるためには効果的。
「日本人の100人に1人の方にご愛用いただきました!」というよりも、「愛用者1,200万人突破!」の方が、爆発的に売れている印象に。
ちょっとした発想の転換が、大きな効果を生むことがおわかりいただけるのではないでしょうか?
つまり、なにかをアピールするときには、影響力をもたらす単位に置き換えたり、数字を効果的に見せたりする、ちょっとした「いいまわしの工夫」が欠かせないということです。
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これは「影響力」のひとつのあり方ですが、本書では他にも、おぼえておいて損はないさまざまな心理テクニックが紹介されています。
ぜひ一度、手にとってみてください。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※神岡真司(2015)『あなたの「影響力」が武器となる101の心理テクニック』フォレスト出版