ひとつの作品に3分間かけて見るべし?美術館との楽なつきあい方

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2015.12.16

suzie.20151216

「美術館に行ってみたいけど、美術の知識がないから行きづらい」

「美術館の雰囲気が嫌いじゃないけど、楽しめているかどうかは疑問」

そんな方も、決して少なくないはずです。

そこでぜひともおすすめしたいのが、『芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本』(藤田令伊著、秀和システム)。

タイトルからも推測できるとおり、「見る力」の養い方や、美術館の楽しみ方を紹介した書籍。

つまり、“興味はあっても知識を持たない”美術鑑賞ビギナーにとって心強い一冊なのです。

著者は、「鑑賞者の立ち位置を大事にしながらアートの愉しみを広げる活動に尽力している」というアートライター。

そして本書の目的は、「美術館という素敵な箱を通して、自分の感性やセンス、ものの見方を磨く方法を探っていく」ことなのだそうです。

つまり「知識があるかないか」「作品を理解しているか否か」ではなく、「美術館のカフェで過ごすだけでも大きな価値がある」というような考え方。

■美術館の中では早足で歩こう

ところで美術館には、「順路」が示されています。そのため、多くの人はその指示に従い、最初から最後まで順番に作品を見ていくのではないでしょうか。

しかし著者は、そういう見方をおすすめしていないといいます。

なぜなら厳密に「順路」に従って見ていくと、次第に疲れてきて、最後の方は「もういいや」ということになりがちだから。

そこでおすすめしているのが、最初に展覧会全体をさっと早歩きで見る方法。はじめから終わりまでを、先にひととおり大まかに見て回るわけです。

すると、「引っかかり」をおぼえる作品がいくつか出てくるもの。「いいな」と思ったり、なぜかわからないけどきになったり、素通りできないなにかを感じる作品が必ずあるということです。

そして、そのような「引っかかり」をおぼえた作品を中心に、あとでゆっくり見ればいいということ。

なお、もしも会場が複数の場所に分かれていたり、展覧会に規模が大きかったりした場合でもご心配なく。ブロックごとに、同じ方法を繰り返していけばいいだけだそうです。

あるいは、展示室の真ん中に立ち、周囲の壁に掛けられている作品をざっと見渡すのもいい方法。

いいかげんなことのように思えるかもしれませんが、この「引っかかり」が意外とたしかな道しるべになるのだそうです。

なぜなら「無自覚的知覚」は、その人の主観にのっとったうえで、見るべき要素を直感的に汲み取っているものだから。

だから決していいかげんではないということ。安心して、「引っかかり」を根拠に作品をピックアップしていけばいいということです。

■美術作品は3分間かけて見る

著者は、「小難しいことは抜きにして、美術作品を見るスキルを向上させる手っ取り早い方法はないのか?」と質問されたら、「3分間かけて見る」ことですと答えるといいます。

たとえばインスタントラーメンをつくる時間であり、通勤電車の次の駅までの時間であり、ウルトラマンが怪獣をやっつける時間であり……。

そう考えてみると、「3分間」は私たちにとってなにかと身近な時間であるということがわかります。

決して長大ではないけれど、それなりの長さがある時間だということ。そして、そんな3分間を美術鑑賞にあてはめると、それだけで見えてくる世界が確実に違ってくるというのです。

3分間かけてひとつの作品と向かい合っていると、パッと見ただけでは感じなかったものを感じることができたり、気づかなかったことに気づいたりするのだと著者はいいます。

あるいは、作品が伝えようとしているメッセージが、だんだんわかってきたりもする。また、作品の細かい部分にも目が行き届くようになるというわけで、3分間という時間は自動的に鑑賞を深めてくれるというのです。

とはいえ、すべての作品に3分かけることは現実的に不可能。だからこそ、上記の「引っかかり鑑賞法」を応用すればいいということ。

まずざっくりと見て、引っかかりをおぼえた作品に3分間かけるという見方で十分だというわけです。

本書を読むと、美術は決して難解なものではなく、アプローチの仕方次第榮倉でも身近になるということを実感できるはず。

美術や美術館に少しでも興味があるなら、ぜひ手にとってみていただきたい一冊です。

(文/書評家・印南敦史)

 

【参考】

※藤田令伊(2015)『芸術がわからなくても美術館がすごく楽しくなる本』秀和システム

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