『夢を「10倍速」で実現する方法』(三木雄信著、PHP研究所)の著者は、20代半ばから30代にかけ、ソフトバンクの社長室長を務めていたという経歴の持ち主。
その期間は四六時中ずっと、つまり朝も夜もなく、ときには休日も関係なく、一年を通じてほぼ毎日、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏と行動をともにしていたのだそうです。
ちなみに、当時の毎日は次のようなものだったのだとか。
朝は孫社長と朝食をとりながらのミーティングでスタートし、昼も食事をしながらホワイトボードを前にミーティング。そして夕食も、会議をしながらとる場合がほとんど。三食をともにしながら、早朝から深夜まで一緒にいるのが当たり前だったというのです。
そんな経験を通じて著者が学んだのは、「夢=なりたい自分」と「現在の自分」との間にあるギャップを最短最速で埋めるためのノウハウ。
つまりタイトルにあるとおり、本書ではあらゆる「夢=なりたい自分」に10倍速で到達するためのノウハウを明かしているわけです。
■孫社長の立てた「人生50年計画」
「目指す山=ゴール」をはっきりさせなければ、どんな戦略を使ったところで意味がないと考えていた孫社長は、わずか19歳で次のような「人生50年計画」を立てていたのだそうです。
・20代で、自ら選択する業界に名乗りを上げ、会社を起こす。
・30代で、軍資金を貯める。軍資金の単位は、最低1千億円。
・40代で、なにかひと勝負をする。1兆円、2兆円と数える規模の勝負をする。
・50代で、地形をある程度完成させる。
・60代で、地形を後継者に引き継ぐ。
実際に、ほぼこのとおりの人生を歩んでいるわけですから驚きです。
■お正月には1年ごとの目標を立てる
そして孫社長は、10年単位の目標としての人生50年計画だけではなく、それを達成するための「1年ごとの目標」をも毎年きちんと立てていたのだといいます。
事実、著者は毎年お正月になると孫社長に呼び出され、ふたりきりで紙に図や表を描きながら、ああでもないこうでもいないと計画を立てていたというのです。
また、さらにそれを月間や週間の小さな目標に分けることも実践していたというのですから、その緻密さには驚かされます。
その時々でやらなくてはいけないタスクを、孫社長がA4サイズくらいの紙に書き出している姿を、著者はよく目にしたといいます。
また、それを移動の車のなかで見せられ、一緒にチェックしたこともしばしば。
そして孫社長は車のなかからあちこちに電話をかけ、「明日10時に○○さんに来てもらって」「来週までに××さんとの面談をセッティングして」というように指示を出し、どんどんタスクをつぶしていくのだそうです。
■多くのビジネスパーソンが応用可能
ちなみに孫社長がこうした指示を出すのは、ほとんどが「人と会う時間を決めてくれ」というものだったといいます。
理由はシンプル。人と会う予定が決まれば、それに付随して「やるべきこと」のスケジュールも自然と決まるからです。
一週間後に孫社長が取引先の幹部と会うとなれば、著者のような社長室の人間には、そこから逆算して前日までには打ち合わせで使う資料を作成する必要性が生じます。
その資料をまとめるには社内の方針をまとめなくてはならないので、その案件に関わるメンバーを集めて社内ミーティングを行う必要も出てくることになります。
そうやって逆算していけば、孫社長個人のタスクだけではなく、会社全体としてのタスクもどんどんつぶしていけるというわけです。
■社外的な発表は最初に決めてしまう
そしてもうひとつ、孫社長が一気にタスクをつぶすためによくやったのが、社外的な発表の日程を最初に決めてしまうことだったといいます。
「○月×日に、A社とのジョイントベンチャー説リスについて記者発表する」
たとえばこんなふうに、いきなり決めてしまい、記者発表の会場になるホテルを予約してしまうのだそうです。
まだA社との交渉が継続中であるにもかかわらず、だといいますが、孫社長がそう決めたからには、交渉担当者たちは期日までにA社との間で条件の合意を取りつけようと奔走することになります。
なぜ孫社長は、こうしたことをあえてするのでしょうか?
つまり、人と会う予定や発表の日程といった、絶対に動かせない「小さな目標」を設定することによって、実現までのスピードが大幅にアップするわけです。
社内の人たちは大変でしょうが、目標を最速で実現するには非常に効果的な手段だったと著者も認めています。
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こうした事実を明かされると、改めて孫社長の力量が際立って見えます。しかしこの話も含め、本書に書かれていることの大半は、多くのビジネスパーソンが応用できることでもあるはず。
そういう意味で、読んでおきたい一冊。特に、気持ちを引き締めたい年の初めには最適です。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※三木雄信(2015)『夢を「10倍速」で実現する方法』PHP研究所