「いつも全力を尽くしてしまう人」は、意外に多いもの。
無理して全力を尽くしたところで実際にはうまくいかないことも多いのに、うまくいかないと「もっとがんばらなければ」と、ますます全力を尽くしてしまうことになってしまったりもします。
しかし逆に、ここぞというところで実力を発揮できる人は、ここぞでないところで巧みに力を抜いているもの。
そう主張するのは、『すごい手抜き – 今よりゆるくはたらいて、今より評価される30の仕事術』(佐々木正悟著、ワニブックス)の著者。
「効率化」と「心理学」を掛け合わせた「ライフハック心理学」を探求しているという「心理学ジャーナリスト」です。つまり本書ではそんな観点から、「うまく手を抜く仕事術」を紹介しているというわけです。
そのなかから、「時間」に関する考え方を引き出してみましょう。
■仕事は限りある時間内にやろう
「仕事に手抜きは許されない」
「時間はいくらかかってもよいから、完璧に仕上げなければならない」
「そうしていない者は、いずれ手痛いしっぺ返しを食らう」
よく耳にするこのような言葉は、毒性が強いと著者は考えているのだそうです。なぜなら、つい信じてしまいそうになるものだから。
しかしいったん信じてしまうと、恐怖で身動きがとれなくなってしまいがちです。
そして気がつけば、「どれだけ徹夜しても、まったく仕事が終わらない」というような状態に追い込まれることになり、最悪の場合は体を壊してしまうということも。
しかし著者は、仕事を完璧に仕上げるというのは、不可能なことだといい切っています。仕事を完璧に仕上げるためには、無限の時間が必要だから。
人が仕事を仕上げるときは、その人がどんなに完璧主義者のつもりであったとしても、どこかで妥協をしているもの。
だからこそ、仕事が仕上がるというわけです。
いわれてみれば当然の話で、やるべき仕事に時間を無制限にかけられる人など、現実的にはほとんど存在しないでしょう。
だから仕事に完璧を期すことによって、むしろ痛いしっぺ返しを食らうことになるという考え方です。
■締め切りギリギリに取り組もう
こだわりが強い人は、仕事に取り掛かるのが早すぎる傾向があると著者はいいます。
一般的な考えの下では、「仕事は早め早めに取り掛かりなさい」といわれるもの。そこで多くの人が、それでいいと思い込んでいるというのです。
しかし、こだわりが強い人は、こだわりが強すぎて、締め切りに間に合わなくなることもしばしば。
その結果、「3ヶ月前から取り組んでも間に合わなかった! 今度は4ヶ月前から取り組まないと!」というような思考に陥るというのです。
しかし、そのようなやり方では、いくら早めに取り組んだとしても同じこと。理由は明白で、締め切りまでの日数があればあるほど、たくさん仕事をしてしまうだけだから。
そんな時間の使い方をするくらいなら、むしろ、「締め切りギリギリになってから取り組むようにしましょう」と著者は提案しています。
時間に余裕をなくしてみるということです。
大胆な考え方のようにも思えますが、時間に余裕をなくしてみれば、「ギリギリのなかで、できることだけをやりきろう」と頭が働くからだという発想。
■ギリギリだと無駄なことをしない
そもそも余裕は、多くあればあるほどいいというものではないといいます。
誰でも、締め切りまで多くの日にちがあると思えば、なるべく時間をかけ、できるだけたくさんのことをしようと思うもの。
しかし先にも触れたように、仕事を完璧に仕上げるというのは不可能なこと。それをやろうと思えば、時間は無制限に必要になってしまうわけです。
そして、おそらく完璧に仕上がることもないはず。逆説的ですが、早い段階から取り掛かるほど、たくさんの時間を使ってしまうということです。
より多くのことをしようとするのは、求められていないムダなことをしているという意味でもあると著者はいいます。
つまり、早め早めに取り組むということは、多め多めにムダをしかねないということだというのです。
一般的に、締め切りギリギリになってから仕事に取り組むのは良くないこととされています。
たしかにギリギリの段階で仕事をすれば、仕事が雑になったり、大事なことをやり忘れたりするなど問題はあるもの。当然、ストレスもたまるでしょう。
しかしそれでも、メリットはあるのだと著者は主張します。
特に重要なのは、無駄なことをしなくなること。時間がないことがはっきりしていれば、ムダなことをしている場合ではなくなるわけです。
そして、ギリギリになってから仕事に取り組んだ方が、判断力が研ぎ澄まされるということ。
■仕事の見積もりも小さくできる
また、ギリギリになってから仕事に取り組み、ギリギリでなんとか終わらせることができたと考えると、もうひとつ大きなメリットが生じるといいます。
仕事を終わらせるのに必要な時間、すなわち「仕事の見積もり」を小さくできるというのです。
こだわりが強い人は、仕事の見積もりを大きくしてしまいがち。でも、多少は妥協したとしても必要最低限のことを時間内にやり遂げることができれば、違う見方もできるようになるということ。
これは、早めに仕事に取り組んでばかりいては、まず得られない見通しだといいます。
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「仕事によってはギリギリになってから取り組みましょう」という著者の考え方は、たしかに大胆。そうはいかない仕事も現実にはあるでしょうが、こうした尺度を持っておくことも、たしかに必要ではあるかもしれません。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※佐々木正悟(2015)『すごい手抜き – 今よりゆるくはたらいて、今より評価される30の仕事術』ワニブックス