『話を噛み合わせる技術』(横山信弘著、フォレスト出版)の著者は、年間100回以上の講演・セミナーをこなす人気ビジネスコンサルタント。
「話し方」の専門家ではないのですが、そんな立ち位置を軸としたうえで、ひとつの考え方を持っているのだそうです。
それは、ビジネスで目標を達成するために必要なスキルは、「話し方」ではなく「話を前に進める力」だということ。本書ではそのような考え方を軸に、話をかみ合わせる術を説いているわけです。
注目すべきは、話がかみ合わない相手とコミュニケーションをとらなければならない場合の策。そんな場合には、相手を外国人だと思って接することが重要だというのですから、ユニークな考え方だといえます。
そして大切なのは、次の3点だともいいます。
(1)前提知識をていねいに伝える
(2)ゆっくりと話し、論点を繰り返そうとする。
(3)話が通じないときは仕方がないと思う。
しかし、そうであるなら、「誰かに悩みを打ち明けたい」「誰かになにかを相談したい」というような思いがあった場合には、果たして相手が話のかみ合う人であるかどうかを意識すべきでしょう。
話がかみ合う人だとわかっていたなら、素直に相談すればいいということになるはず。しかし話がかみ合わない要注意人物だとわかっているのなら、事前準備をしたり、話し方を工夫したりすべきだということです。
あるいはそれ以前に、最初から話を持ちかけないべきかもしれません。
いずれにせよ、話がかみ合わない要注意人物については、その特徴を認識しておくべきだということ。そこで、著者のいう「相談してはいけない要注意人物の3つの特徴」を見てみましょう。
■1:置かれた立場や環境などが著しく異なる人
話をかみ合わせるためには、話のコアとなる知識をお互いが共有していることが前提条件。
たとえば、学校卒業後すぐに結婚し、一度も社会で働いたことがない専業主婦と、長時間労働が当たり前の環境で働くビジネスウーマンとでは、価値観が違って当然。
どちらが優れているかという問題ではなく、環境が違いすぎるのだから、話がかみ合わなくて当然だということです。
性別が異なり、年齢が離れていたりすると、「かみ合わない度」はさらに大きくなっていくだろうと著者は指摘しています。
■2:リアルでの接点が少ない人
これは、インターネット上でのつきあいがメインの人のこと。
ツイッターやフェイスブックなどのSNSを通じて親しくなり、自分が抱えていることについて相談したいという気持ちになったりするようなケースです。
しかしこのような場合、お互いの立場や環境を正しく共有できていないケースが多いと著者はいいます。だから、実際に会話をしてみると、かみ合わないことも多々あるということ。
原因は明白で、つまりメールやメッセージ交換のみのやるとりだと、どうしても「言葉の省略」と「タイムラグ」が発生するから。
リアルな会話であれば、ちょっとした言葉のニュアンスを補うことができたり、自分のいい間違いや相手の誤解を即座に訂正したりすることも可能でしょう。
しかしネット上だと微調整ができないため、誤解が誤解を生み、話がこじれてしまう場合が多いということです。
だからこそ、どうしてもネットだけのおつきあいの人に相談したいという場合は、電話やスカイプを使うなど、双方向の通話ができるシステムを活用するのがいいと著者は提案しています。
■3:自分の方が立場・地位が上だと考えている人
自分の方が相手より立場が上だと考えている人、いつも上から目線で話を聞こうとする人は要注意。
なぜなら彼らは話半分に聞き、しかも早とちりした挙句、自分の考え方を押しつけようとしてくることが多いから。
具体的にいえば、「なんでも私に相談しなさい」と命令口調でいう人には、なおさら相談しない方がよいといいます。
相談してアドバイスをもらったのに、その人の考えにしたがわないと、あとからややこしいことになったりする可能性があるわけです。
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しかし現実的にはこうしたケースだけではなく、話がかみ合わなくなるシチュエーションは多種多様。だからこそ、さまざまな状況を想定しておくことが大切であり、それぞれについての対処方を用意しておくべきでしょう。
そこで、本書が役に立つというわけです。
人間関係に悩んでいる人は、ぜひ一度、手にとってみてください。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※横山信弘(2015)『話を噛み合わせる技術』フォレスト出版