『感情にふり回されないコツ』(辻秀一著、フォレスト出版)の著者は、20年間もの経験を持つというメンタルトレーニング専門ドクター。
その長いキャリアのなかで、ビジネスパーソンはもちろんのこと、アスリート、芸術家など、幅広い層に向けてのメンタルトレーニング指導を行い、実績を残してきたのだそうです。
そんな著者には、伝えたいことがあるといいます。
まずは、常に平常心でいようとしても、それは無理な話だということ。
次に、常に心を安定させておく必要はないけれど、乱れたならすぐ切り替え、心の状態を整えることが大切だということ。
理由はシンプルかつ明快で、心の乱れが、自分自身のパフォーマンスの質を下げてしまうからです。
■心の乱れに気づくだけで心は整っていく!
ちなみに、ここでいうパフォーマンスとは、「なにをするのか」という行動の内容と、それを「どんな感情で行なうのか」という心の状態。
そして、行動の内容を決めるのは脳の認知による機能で、心の状態を整えていくのが脳のライフスキルという機能なのだそうです。
人間は誰しも、心の状態を整えるスキルを持っているもの。
「なのに心が乱れるのはおかしい」と思われるかもしれませんが、そこには根拠があるようです。
すなわち、持っているはずのスキルを使わないから、心の乱れを整える力が弱まっているというだけだということ。
だとすれば逆にいうと、コツさえつかむことができれば、ライフスキルを使いこなすことができるということにもなるでしょう。
たとえば、「いま、心が乱れているな」と自分の感情に気づくことがあります。するとそれだけで、多かれ少なかれ心の状態は整っていくものです。
つまりは、そうした脳の使い方もライフスキルのひとつなのだということ。
■ライフスキルについての3つのキーワード
そんなライフスキルについてのキーワードは、次の3つだそうです。
「いま」
「ここ」
「自分」
物事に向かうとき、他人と接するときに、これらを意識することが大切だというのです。なぜならこの3つは、自分で安定してコントロールできるものだから。
過去は変えられませんし、未来は不確か。しかし、「いま」なら自分でコントロールできます。
出来事や環境はコントロールできませんが、目前(ここ)にあることを精一杯やることは可能です。
そして他人はコントロールできないけれども、自分の心はコントロールできるでしょう。
だからこそ、この3つに集中することで、心は整った状態へと変化していくということ。
■知っておきたい「心が乱れる13の思考」
そして心を楽にしておくためには、心の乱れを少なくする必要があるはず。そこで著者は、人の心が乱れる原因となる13の思考を紹介しています。
これらをチェックすることが、自分の感情に気づくためのヒントになるのだとか。ぜひとも、おぼえておきたいところです。
1.未来思考(不確実さから起こる心の乱れ)
2.期待思考(勝手な想像からくる心の乱れ)
3.勝利思考(敗北への不安からくる心の乱れ)
4.疑念思考(裏切りからくる心の乱れ)
5.過去思考(新しいことをすることへの恐れからくる心の乱れ)
6.安定思考(変化への恐れからくる心の乱れ)
7.獲得思考(喪失の心配からくる心の乱れ)
8.帰属思考(孤独からくる心の乱れ)
9.比較思考(他者から影響される心の乱れ)
10.評価思考(優劣が気になることからくる心の乱れ)
11.ポジティブ思考(ネガティブになってはいけないという固定観念からくる心の乱れ)
12.成功思考(失敗を予想することからくる心の乱れ)
13.結果思考(不達成への恐れからくる心の乱れ)
出来事、環境、他人に対して抱いてしまう思考によって、心が乱れてくることが多いというわけです。
だとすれば、たしかにこの13項目を意識しておくだけでも、少なからずメリットはありそうです。
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著者のいうとおり、心とうまくつきあっていくことができれば、感情に左右されることも少なくなるはず。それは、日常の安定感とも連動することでしょう。
だからこそ本書を通じ、心との距離感を保ちたいものです。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※辻秀一(2015)『感情にふり回されないコツ』フォレスト出版