1万円のカレーを生み出した「宮城県石巻市の高校生たち」の努力

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2016.02.05

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すっかり社会に浸透した感があるので説明の必要はないかもしれませんが、「NPO(Non-Profit Organizationの略称 非営利組織)」とは、さまざまな手段によって、社会を少しでもよくしようと取り組んでいる人たちによる組織のこと。

それぞれの現場では、深い知識を持った専門家からボランティアまでが集まり、同じ思いを共有し、同じ目的のために協力しながら活動を続けています。

きょうご紹介する『10000円のカレーライス NPOで見つけた心にのこる物語』(日本財団CANPANプロジェクト著、日本実業出版社)は、そんなNPOの活動に焦点を当てた書籍。

それぞれのNPOの活動のなかから生まれ、活動に携わる人たちのなかで語り継がれてきた21の心温まるストーリーが集められています。

自然災害、小児医療、介護など、それぞれのNPOが向き合う社会問題の質もさまざま。つまり「NPOってなにをやってるんだろう?」と、聞くに聞けない疑問を抱いている方が、その活動を知るにも最適だといえるでしょう。

もちろん読み物としても、純粋に受け止めることができるはずです。

■石巻の高校生たちが主役

ところで本書のタイトルは、宮城県石巻市に実在する、いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)の活動のなかから生まれたストーリーに由来するもの。

東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻に誕生した、地元の高校生が運営するカフェです。

運営の目的は、将来の地域の担い手である高校生が、地域活性に対して主体的にたずさわり、そこから「自分の将来と地域」について学ぶこと。

そこでNPO法人などがプロジェクトを企画し、2012年にスタートしたのだといいます。

だから、大人のスタッフはあくまでサポート役。メニューも内装も店名についても、すべて高校生が主体となって生み出され、動いているもの。

ちなみに店名の「 」には、「なんでも入る可能性や個性、原点のなにができるのだろうというワクワク感を大切にしたい」という高校生たちの思いが込められているのだそうです。

■石巻のカレーをつくろう

お店がオープンしたのは2012年11月で、地域の人々に支えられたこともあって出だしは好調。高校生たちの学校がない週末のみの営業であるものの、毎週たくさんのお客様でにぎわったのだそうです。

しかし2ヶ月ほど経過したころには、客足がだんだん遠のいていくことに。大きな原因は目玉となるランチメニューがないことだと考え、新メニューの企画会議が開かれました。

その結果、幅広い世代から愛されているメニューだからということでカレーライスが採用となり、石巻の魅力をふんだんに詰め込んだご当地カレーを開発することになったのだといいます。

「カレーで石巻を元気にしたい」という趣旨に賛同した水産加工会社から、石巻のその結果、漁業を学ぶ機会も得ることができ、また素材の無償提供も受けることができたことから、やがてカレーは完成。

さらにユニークなのは、実際にお客様に試食してもらい、味の評価とアドバイスを聞き、言い値を支払ってもらうシステムにしたことでした。

■カレーに1万円の値段が

ところがふたを開けてみると、1,000円近くをつけてくれる人がいる一方、多くは500円以下という厳しい評価。

それはそれでありがたいと感じつつも、高校生たちは、まだ満足してもらえないもどかしさを感じ、数ヶ月にわたってカレーのマイナーチェンジを続けていったのだそうです。

そんななか、いつもどおり営業をしていると、40代くらいの男性客がカレーとコーヒーを注文。

そしてその人の帰り際、高校生スタッフがいつもどおりアンケート用紙に記載してもらった金額を確認すると、

ご注文品:いしのまきカレー

値段:10,000円

と書かれていたのだとか。

「1,000円の間違いではないでしょうか?」と高校生スタッフが思わず聞くと、男性からは「いいえ、10,000円ですよ」との答え。そして、こう続けたそうです。

「私は復興支援の仕事で石巻に来ました。地元の高校生ががんばっている姿に感動しました。これはそのがんばりに対しての応援の気持ちです。いろいろな意見を聞き、じっくりと納得のいくカレーを完成させてくださいね」

■石巻への応援の意味も!

10,000円もの大金を払ってくれた意味は、がんばる高校生スタッフへの「応援」だけでなく、被災地石巻への「応援」でもあったということです。

そしてその結果、その後もたくさんのお客様の意見を聞き、専門家のアドバイスも受け、納得のいくカレーが無事に完成したのだとか。

できあがったカレーにつけられた名前は「かぎかっこカレー」。石巻の漁場である三陸沖は親潮と黒潮が交わる豊かな漁場。それを親潮に乗ってくるサンマのキーマカレーと、黒潮に乗ってくる真鯛のスープカレーのダブルスープで表現したのだそうです。

こうしたエピソードは間違いなく、営利目的ではないNPOだからこそ生まれたもの。一人ひとりの取り組みが実現させたものであり、だからこそ読んでいても強い説得力を感じさせてくれるのです。

(文/書評家・印南敦史)

 

【参考】

※日本財団CANPANプロジェクト(2015)『10000円のカレーライス NPOで見つけた心にのこる物語』日本実業出版社

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