先進国はアメリカをのぞいて、人口減少と少子化に苦しんでいます。
少子化だけで考えても、平成25年の日本における合計特殊出生率は1.43、2012年のデータでは、ドイツは1.38、アメリカは1.88という状況です。
国際経済評論家の長谷川慶太郎さんとジャーナリストの田原総一郎さんが、オリンピックイヤーの日本社会を予言した『2020年世界はこうなる』(SBクリエイティブ)では、出生率改善のために、子育てにまつわる優遇制度を手厚くするべきだと論じています。
子育てしやすい社会のため、保育園数の確保は必要不可欠。そのためには保育士の給料の改善と、保育士および介護士にロボットを大量投入して財政資金で補助するという、驚きのアイデアも提案されています。
さらに未婚者の増加について、「国から結婚お祝い金を出すべきだ」という話も飛び出しますが、それもまったくトンデモない話ではないかもしれません。
ところで日本が効果的な少子化対策をできずにいる一方、50年かけて人口が増加した国があります。それはフランス。
なぜフランスは自然の人口増加が達成できたのでしょうか。著者のひとり、長谷川慶太郎さんに伺いました。
■フランスの2人目が産みたくなる制度とは
そもそも、フランスが少子化対策に力を入れた理由とはなんだったのでしょうか。
長谷川さんによると、「フランス政府は1930年代、ドイツとの対抗上、人口増加政策を導入しなければならないという政治判断に至り、育児奨励策を導入しました。
戦後はその伝統を一段と発展させるべく一連の制度を確立する努力を重ねて今日に至っています。同国の出生率は2008年に2.01となった後、現在まで2を維持しています。政府が国民に対して手厚くきめの細かい家族手当を実施していることが、その理由です」とのこと。
つまり、フランスは「ドイツに負けたくない」精神が出生率増加につながったのです。
また、フランスは家族手当の制度が充実しており、その数は30種類以上あります。それも出生率増加に大きく関係しています。
「第2子以降は所得制限なしで20歳になるまで家族手当を給付するほか、子どもが3歳になるまで育児休暇か、労働時間の短縮が認められ、第2子の育児休業手当は3歳まで受給されます。さらに、ベビーシッターを利用する際には補助金も支給されるのです。
この政策は、2人目の子どもを産むかどうかで、強烈なインパクトをもたらしたのではないかと思います。日本でも同様な政策が講じられれば、出生率は上昇するのではないでしょうか」(長谷川さん)
日本の児童手当の制度は1971年にスタートしましたが、フランスの家族手当は1932年にスタート。支給額や支給期間も、日本とはくらべものにならないぐらい充実しています。
現在のフランスの高出生率を支えているのが、この家族手当なのです。家族手当は20歳未満の児童は第二子から支給され、123ユーロ、第三子は158ユーロ、そしてさらに11歳以上の子に対して34ユーロ、16歳以上の子に対して61ユーロの加算があります。
しかも所得制限はなく、どのような収入の人にも無条件で支給されるのです。
■育休期間短縮の代わりに給料5割アップ!
日本では1人目を出産しても、保育園や職場復帰の問題で、2人目出産を躊躇する「2人目の壁」が存在するといわれています。
一方、フランスでは育休制度も充実しており、子どもが3歳になるまで取得することが可能。親が終日休む育児休業と、労働時間を短縮する時短勤務のどちらかを選ぶことができます。
また第三子については休業時間を1年に短縮するかわりに、賃金制度を5割増しにする制度が導入されました。手厚い給付と並んで、柔軟な休業制度がフランスの家族政策の特徴となっています。
さらにフランスには、子どもを大切にする文化があります。チケット売り場やレジなどでどんなに長い行列ができていても、子連れは先頭にまわしてもらえるのです。
公共交通機関では小さな子どもを連れている場合、席を譲ってもらえることがほとんど。手厚い政策だけでなく、国民の間に誰に強制されたわけでもない子供を優先してあげる文化が根づいているため、多くの人が「子どもを産んでみよう」「この国で育ててみよう」と思えるのです。
人口を国力と考え、公立保育園も午前8時半から午後4時半まで、無料で預かってくれます。
保育アシスタントも利用されており、3歳未満の子どもを自宅で預かってくれる制度があります。保育料は年間1万ユーロかかりますが、こちらも公的な補助を受けることができます。
そして、文化面で見てみると、シングルマザーや事実婚の許容など、多様な家族のあり方が認められています。未婚の母も多く、いろいろな価値観が浸透しているのです。
多様な家族のあり方を許容しているからこそ、子どもを産みたいと思った時にすぐ産める環境が整っている、といえるでしょう。
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日本でも徐々にステップファミリーが増えてきており、多様な家族のあり方が浸透してきました。2020年には、日本もフランスのような家族のあり方が増えてくるかもしれません。
長谷川さんは『2020年世界はこうなる』のなかで、日本以外の国についても今後どうなるのかを予測しています。世界の将来が気になるかたは、必読です。
(文/渡邉ハム太郎)
【取材協力】
※長谷川慶太郎・・・国際エコノミスト。1927年京都生まれ。1953年大阪大学工学部卒業。新聞記者、雑誌編集者、証券アナリストを経て、1963年に独立。1983年に出版した『世界が日本を見倣う日』(東洋経済新報社)で、第3回石橋湛山賞を受賞した。
【参考】