仕事ができる人や幸せに成功している人たち、とくに一流であればあるほど、まず住まい(部屋)やオフィスなどの周辺環境を整えることに徹底的にこだわっている。そして、自らがつくった環境に成功を後押しされている。
そう断言するのは、『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』(八納啓創著、KADOKAWA)の著者。
一級建築士として多くの人の家やオフィスの設計、改築などに関わり、自身が開催する「家づくりのセミナー」を通じて、たくさんの人と出会う機会があるという人物です。
そんな著者が本書で伝えようとしているのは、「人生や仕事がうまくいく人といかない人の差・違いはその人の能力差ではなく、住環境、職場環境つまりは過ごしている場所や部屋の活かし方の差である」ということ。
なかでもとくに印象的なのは、パフォーマンスを最大限に発揮するためには、環境をうまく活かすことが不可欠であるという考え方。
そして環境を活かすための感性を磨き上げるためには、4つのポイントがあるのだそうです。
■1:その場所でどう感じるかを意識する
場所や空間は、たとえば商談や打ち合わせの結果、仕事の成果、体調や精神的なバランスなどに大きく働きかけるもの。
そこで、さまざまな環境下において、自分が「どう感じるか」を意識してみることを著者は勧めています。
たとえばオフィスでも、「ここに座ると、なぜか落ち着く」「この部屋で打ち合わせをすると、いつもいいアイデアが出る」といった場所があるはず。
その場所が、自分にどういう感覚を抱かせるのかを意識してみるということ。そうすることで、「場」のもたらす影響力を実感できるようになってくるのだそうです。
■2:その場所を使う意図を明確にする
人生がうまくいく人は、住む部屋を探すとき「公園の近くに住んで緑に囲まれたい」「富士山が見える部屋で毎朝目覚めたい」など、明確な目的を持っているのだと著者はいいます。まずは、それが大前提。
そして場所が持つよい力を感じることができたら、次にすべきは「なぜその場所なのか」を決めること。なぜなら、そうすることにより「どう活用するか」が見えてくるから。
つまり、ハイパフォーマンスを実現するためには、「そうなるために、なぜそこにいるのか」をはっきりと意識することが大切だという考え方です。
とはいっても、新たに目的を考えなおし、その目的に合った住まいに引っ越さなければならないというわけではありません。
「なぜ、いまの家に住んでいるのか」を、もう一度考えてみることが重要だということ。
たとえば会社が用意してくれた社宅に住んでいるとしたら、「会社に近くて便利だから」「家賃が安いから」などの理由が思い浮かぶでしょう。
しかし、もう少し前向きで楽しめる意識に結びつくように考えなおしてみればいいのです。
会社に近いのが理由なら、「通勤電車のストレスにさらされずに体力を温存できる。家賃が安いなら「そのぶん、自分の勉強や経験を広げるためにお金が使える」というように、視点を前向きに変えてみるわけです。
■3:目的によって場所を使い分ける
著者は、原稿を書いたり、本の執筆をしたりするときには、意図的に近所のチェーン系コーヒーショップやファミリーレストランに行くのだそうです。理由は、その場所にあるエネルギーをうまく活用したいから。
自宅やオフィスで考えていると専門的な思考に陥りがちになるため、一般社会に近い状況に触れるわけです。
いっぽう、社外でクライアントと打ち合わせをするときは、一流ホテルのラウンジを使うようにしているそうです。
質の高い空間で、よい記憶のエネルギーを受け、好ましい結果を手に入れるためだといいますが、つまりは目的によって場所を使い分けることが大切だというわけです。
■4:相手との快適な距離感も常に意識する
部屋や空間以外の大切な環境のひとつが、「人との距離感」。環境を考えるのであれば、相手との距離感についても考えるべきだという考え方です。
知らない人ばかりが乗っているエレベーターのなかは、緊張感が漂うもの。しかし知り合いが乗り合わせたときは、さほど緊張しません。
このように、「心地よい距離感」は違うものだということ。つまり距離をうまく縮めることができれば、信頼できる関係になることも可能だということです。
また、「どこに座るか」も大切な要因なのだとか。仕事のときでも、「この相手とは信頼関係を築きたい」と思ったら、座る位置を変えるだけで相手との距離感が変わる可能性があるそうです。
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睡眠環境から風水・家相まで、住まいをさまざまな角度からとらえた一冊。読んでみれば、意外な気づきがあるかもしれません。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※八納啓創(2015)『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』KADOKAWA