ノンストップで2時間も!酒井若菜の聞く力を支える「3つのK」

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2016.03.22

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手に取ると、まずそのボリュームに驚かされます。

『酒井若菜と8人の男たち』(キノブックス)は、昨年芸能生活20年を迎えた女優・酒井若菜さんが、友人である8人の男性芸能人との対談とエッセイをまとめた1冊。2段にびっしり埋め尽くされた文字と、厚さ3cm、400ページを超える重量感にたじろいでしまいます。

でもそれは、本書を開くまでのこと。

俳優・脚本家のマギー氏、俳優のユースケ・サンタマリア氏、芸人で俳優の板尾創路氏、ロックバンド「サンボマスター」の山口隆氏、俳優の佐藤隆太氏、お笑いコンビ「バナナマン」の日村勇紀氏、「ナインティナイン」の岡村隆史氏、「浅草キッド」の水道橋博士氏を招いて繰り広げられる8つの対談はどれも率直で驚きに満ちていて、ページをめくる手を止めるのが難しいほど。

そんな8つの対談を支えるのが、対談相手の話を引き出す酒井さんの「聞く力」。その源はどこにあるのでしょうか。ノンストップで2時間に及ぶこともあったという各対談を牽引したのは、人間関係づくりになによりも大切な「3つのK」の存在でした。

■1つめのK:「好意」

対談相手は、酒井さんが仕事の現場で知り合い、その後も縁が続いている人たち。誰もが酒井さんとの対談の時間をとても楽しんでいる様子が文面から伝わってきます。

そんな空気をつくり出しているのが「好意」の感情。酒井さんは、相手への尊敬・敬意よりもと強い、「恋心」といってもいいくらいの感情を素直に言葉で伝えていて、ドキッとすることもしばしばです。

佐藤氏との対談では「私、りゅうちゃん(佐藤さん)と結婚するかもと思ってたけどな~」と、サラッと衝撃発言。でもそこにいやらしさはまったくありません。

対談相手にも、読者にも、酒井さんが抱く相手への敬意がしっかりと伝わるのです。酒井さん流の好意の最上級表現といったところ。

普段、好意を言葉で伝えるのはなかなか難しいこと。恥ずかしさが先に立ち、受け入れられなかったときの不安も大きくなりがちです。

でも、案外いわれたほうは素直にうれしいと感じてくれるもの。酒井さんと対談相手とのやりとりを追っていくと、そのことに気づかされます。

■2つめのK:「共感」

会話のなかで、共通の趣味などお互いがよく知っているテーマを話題にすることってよくありますよね。でも、話題が広がれば広がるほど、会話の着地点を見失う恐れも。

サンボマスター・山口さんとの対談でのこと。さまざまなカルチャーに造詣が深い山口さんの話題は、落語や歌舞伎からジャズ、尊敬するミュージシャン・忌野清志郎さんへの思いなど、どんどん変化していきます。

熱中して話す山口さん、ときどき「こんな話ばっかで大丈夫?」と不安顔に。すると酒井さんは「大丈夫。さいっこうです」「とりとめのない話、聞きたいです」と、とことん相手の思いに共感し、がっちりと受け止めます。

それは、向き合う相手をまるごと受け止めたい、という酒井さんの思いの現れ。「もっと聞きたい」という思いを伝えることが、相手を丸ごと受け入れる意思表示になるのです。

■3つめのK:「感謝」

本書全体から感じられるのは、対談相手に対する酒井さんの感謝の気持ち。なかなか口にできない言葉を、酒井さんは率直に伝えます。

マギーさんとの対談では、悩みを抱えて女優を休業した酒井さんと、その日々を支えていたマギーさんの関係が明かされています。

苦しみのなか、救いを求めてマギーさんに頻繁にメールを送っていた酒井さん。あるとき、不安に負けそうな酒井さんが「いつ死ぬかわからないから」と送ると、年上のマギーさんから返ってきたのは「順番抜かし禁止」というメッセージだったそう。

対談中、酒井さんはメッセージを受け取った当時の思いを振り返り「それだけで泣きそうになっちゃって」「あ、生きようとか思っちゃいましたね」と率直に話しています。

悩んでいるときに、家族や友人のちょっとした一言に救われることは誰にでもあること。そんなとき、「救われた」という思いをこんなふうに率直に相手に伝えることができたら。いまよりもう一歩、強いきずなを結ぶことができるのではないでしょうか。

読み進めるうちに感じるのは、本書全体を取り巻く「もう一つのK」の気配。その正体が、あとがきで明かされます。

「完治のない病ばかり患うけれど、わたしが新たに患った「幸福」という病に関してのみ言えば、これだけは不治の病であればいいのに、と思っている。私は今、幸福を患っている」

「聞く力」といっても、そこにあるのは特別なテクニックではなく、相手を思う素直な気持ち、この時間が幸せだ、という思い。それが対談相手にも、読む人にも伝わって、幸福感を生んでいるのでしょう。

対談中「第二弾、第三弾とかで、女性バージョンとか、いろんなバージョンで(対談集を)創れるかなっていうもくろみがあったりもして」と展望を語る酒井さん。

第二弾も期待大です。

(文/よりみちこ)

 

【参考】

酒井若菜(2016)『酒井若菜と8人の男たち』キノブックス

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