『「やさしさ」という技術――賢い利己主義者になるための7講』(ステファン・アインホルン著、池上明子訳、飛鳥新社)の著者は、スウェーデン・ストックホルムのカロリンスカ医科大学の分子腫瘍学教授、がん専門医。
またその一方、スウェーデンにおいては「倫理」についての講義・講演も高い評価を得ているのだとか。
著作も多く、特に、倫理的に生きることの意義と効用に焦点をあてた本書はベストセラーとなり、北欧を中心に話題となったのだといいます。
きょうは「成功」に焦点を当てた第6講「成功とは何か?」のなかから、興味深い項目をピックアップしてみたいと思います。
意外なことに、「高収入」「名声」と求める人ほど幸福度が下がるというのです。
■目標達成=幸せではない!
なにを成功とみなすかについては、人それぞれ異なる考え方があります。そして「自分が目標とする高みに達するにはどうすればいいのか」について、ひとりひとりが日々考えを巡らせています。
とはいえ、自分が設定した成功目標を達成したら、私たちは必ず満足できるものなのでしょうか? この問いに対して著者は、「残念ながらそうではない」と断言しています。
にもかかわらず私たちはしばしば、「目標を達成すれば幸せになり、満足する」と信じ込んでしまう。
たとえば大金を稼いだり、豪邸に住んだり、責任ある仕事を任されたり、理想の恋人を見つけたりすれば、自分の人生に満足できるだろうと思い込んでしまうわけです。
■お金があっても低い満足度
アメリカの大学で行われた調査によると、新入生の70%以上が「財力」こそ重要な人生の目標だと考えているのだとか(対して、人生哲学を深めることが重要だと考えている学生は、わずか40%)。
では、実際にお金持ちになったらどうなるのかといえば、ある調査によると、高額の宝くじに当選した人の「人生の満足度」は、当選してから1年後には、当選しなかった人とほぼ同じになるというのです。
同様に、なんらかの理由で収入が急増した人を対象に調査を行ったところ、彼らは一様に「満足度が高まったとは思えない」と答えたのだといいます。
また、平均的なアメリカ人の購買力は、過去45年間で2倍以上になったそうです。でも、これを大成功といえるのでしょうか?
1957年には、アメリカ人の35%が「自分はとても成功したと思う」と答えたのに、2002年には、同じ回答をした人は30%にまで減少。他の先進国でも、同じような傾向が見られたそうです。
つまり、ここ50年間で経済は著しく発展したにもかかわらず、人々の満足度は上がっていないのです。
一方、発展途上国での調査では、アメリカ人と同程度の満足度を感じているという結果が。
ある経済レベルを下回ると満足度は下がるという結果も出ているものの、年収が約150万円に達すると、それ以上給料が上がっても満足度は上昇しないのだそうです。
■高収入が目標だと不幸に!
幸福度の関係を調べたデータによれば、「高い収入」や「仕事上の成功」、「有名になること」を目標にしている人は、「友人に恵まれること」や「いい結婚」を人生の重要な目標にしている人にくらべ、自分を「やや不幸」もしくは「とても不幸」だとみなす傾向が2倍になるというのです。
そして41もの国を対象とした調査においても、成功と愛には大きな相関関係があることがわかっているといいます。
愛を重視すればするほど、人は幸せになれる。しかしお金に高い価値を置いている人の場合は、正反対の相関関係が成り立つということ。
端的にいえば、お金を重視すればするほど不幸になるというわけです。
■真の成功目標を考えるべし
なにかを達成したとしても、「成功した」と感じられない場合はよくあるものです。そんななかで重要なのは、真の成功目標と偽りの成功目標とを区別することだと著者はいいます。
数々の研究が示すように、物質的なものを手に入れても幸せになることはめったにないもの。
しかし、いい関係を手に入れると、満足と成功を実感できるようになるということです。
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本書の説得力のひとつは、著者が医師であるということ。日常的に死と向き合う立場においての経験が生かされているからこそ、共感を呼ぶことにも納得できるのです。
(文/書評家・印南敦史)
【参考】
※ステファン・アインホルン(2016)『「やさしさ」という技術――賢い利己主義者になるための7講』飛鳥新社