「Ameba」や「Ameba FRESH!」を筆頭とするインターネットメディア運営、インターネットの広告事業などを推進しているサイバーエージェント。
『成長をかけ算にする サイバーエージェント 広報の仕事術』(上村嗣美著、日本実業出版社)は、そんな同社において、実に13年にわたり広報事業に携わっているキーパーソンによる著作です。
大成功を収めた同社は現在、社員数3,500以上の規模。しかし著者が同社で広報の仕事をはじめたときは、まだ30人そこそこの会社にすぎなかったのだそうです。
つまり、30人の会社の広報から、3,000人規模の会社の広報まであらゆる広報戦略に携わってきたということになります。
30人程度の社員数なら、社員全員がなにをしているのか、どこに行っているのかを実感として把握できる規模だといえます。しかし3,500人となると、すれ違った人が社員なのかどうかさえわからなくても当然。
そして著者の感覚からいえば、社員全員のことがわかり、「なにを誰に聞けばよいのか」を把握できるのは、社員数が300人くらいまでの規模なのだそうです。
事実、サイバーエージェントでは、300人を超えた2002年に「社員の顔を伝える」ことを目的として社内報を立ち上げたのだとか。
そして多くの場合、ステークホルダーも事業の幅も、社員数に比例して変わっていくもの。つまり、社員数が変われば、広報の活動も変わってくるわけです。
■1:社員数30人のときの広報活動
社員数が30人のときのサイバーエージェントの広報は、完全に社長中心の活動だったそうです。
理由は、このくらいの会社規模のときは、会社の顔といえば経営者だから。名もない会社だからこそ、社長が語るビジョンや会社の将来性に価値があるということです。
会社のトップである社長がどんどん表に出て行かないと、なかなかメディアに取り上げてもらえない規模なのです。
また取り上げてくれるメディアも、トップがチャレンジャーであるスタートアップ企業には好意的なことがほとんどなのだそうです。
■2:社員数300人のときの広報活動
サイバーエージェントが300人規模になったのは、設立から5年経ったころ。経営者が象徴的な存在であることには変わりがないものの、なんでもかんでも「経営者頼み」という広報活動から脱却するタイミングです。
会社の成長を現場で見てきた著者の実感は、「300人くらいの規模は人数がたしかに増えてきたけれど、まだある程度社員の顔や人柄はわかる。でも、少人数だった昔のような一体感は失われつつある」というものだったといいます。
つまり300人とは、組織としても少しずつ一体感が失われていく規模だということ。
また企業としてそれなりの社会的責任や影響力も出はじめてくるため、広報としてもそれを踏まえつつ、企業ブランドをつくっていく必要があったそうです。
そこで、このときにサイバーエージェントの広報として著者が取り組んだのが、「経営者依存による広報露出からの脱却」。
そこで社長以外に、会社のスポークスパーソンとなりうるスター社員を何人か発掘したのだといいます。
その結果、それまではすべて社長が受けていた取材の一部を、そういった社員に振り分けて取材慣れさせることで、「必ずしもいつも社長がメディアに出なくてもいい」という体制になってきたというのです。
社員を出すことは、会社で働いている人の姿を見せること。その積み重ねから、働く社員の姿を通じて共感を得たり、企業イメージが形成されたりしていくというわけです。
■3:社員数3,000人のときの広報活動
ベンチャー企業としてスタートしたサイバーエージェントも、現在ではグループで社員数3,500人。より企業としての一体感やメッセージの発疹が重要な局面に来ていると著者はいいます。
そして急成長してきたいま、広報の現場づくりにも必要になってくるものがあるとも主張しています。
社員の意識が取り残されてはいけないだけに、いま取り組まなければいけないことは、「社格」を高める企業ブランドづくりだというのです。
そのために欠かせないのは、「自分たちの言動や行動が会社のイメージに関わってくるんだ」といった社員の意識。
また、事業が多岐にわたり、どうしても縦割り組織になってしまうからこそ、改めて社内広報が重要になってきたともいいます。
そこで現在は、社内報やプロジェクト史などを通して、社員の啓蒙活動を強化しているのだそうです。
常に新しいことをしなければ、企業イメージは衰退の一途をたどってしまうことになるため、広報としても常に自分の取り組みを見なおす必要があるということ。
会社の規模が大きくなったいま、サービス広報の観点では、サービスの認知向上や利用価値促進はもちろん重要。
しかし企業広報という観点では、会社として常に新しいイメージを保つこと、さらに企業ブランドを高めることが重要になっているということです。
*
短期間で急成長を遂げた会社の歴史を紐解けば、広報活動のあり方を確認できるはず。ぜひ一度、手にとってみてください。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】