いじめによるものから芸能人関連まで、自殺に関する報道は少なくありません。
最近では中学生の自殺が話題になったほか、ライターの北条かやさんが自殺騒ぎを起こしてネット上で大きな騒ぎになったりもしました。
自殺に関する報道は、私たちにいじめ等の社会問題を提示してくれますが、その半面で「メディアが報道することで自殺が増えるのでは?」という疑問の声が上がっているのも事実です。
かといって、それらの報道を一切しないというのも問題でしょう。では、自殺に関する報道はどうあるべきなのでしょうか?
■メディアの伝え方で自殺数は激減する
報道と自殺の関係を示す例として、オーストリアの地下鉄自殺の話がよく上がります。
オーストリアのウィーンでは、マスコミが地下鉄での自殺をセンセーショナルに報道しており、「メディアが自殺を煽っているのでは?」と考えられていました。
それを問題視したオーストリア自殺予防学会の訴えによって、報道の仕方が変わることになります。ウィーンのメディアが、自殺者を英雄的に扱うことや、自殺の方法を報道することを止めた結果、地下鉄での自殺や類似の自殺は80%以上減少したのです。
また、フィンランドでもマスメディアが「自殺」という単語を使用しない・自殺の経緯を報道しない等の原則を立てたことで、自殺数が減少しているようです。
実際、メディアの報道の仕方ひとつで自殺数が変ることがわかりました。ではなぜ、メディアは自殺に関してセンセーショナルな報道をしてはいけないのでしょうか?
■気を付けるべきなのはウェルテル効果
オーストリアで地下鉄自殺が増加した原因として「ウェルテル効果」という現象が上げられます。
自殺に関する報道がされた後、同じような自殺が連鎖的に発生するという現象です。ゲーテの『若きウェルテルの悩み』がベストセラーになった後、若者が主人公の真似をして自殺を図る事件が相次いだことから命名されました。
「ウェルテル効果」を発見した社会学者、フィリップスは「自殺率は報道前ではなく、報道前に上がる」「自殺が大きく報道されるほど自殺率が上がる」「自殺の記事が入手しやすい地域ほど自殺率が上がる」ことを実証的に明らかにしました。
日本でも、X JAPANのhideさんが急死した際、メディアが自殺だと報道した後、ファンの後追い自殺が急増しました。これもウェルテル効果によるものだと考えられています。
オーストリアの鉄道自殺もセンセーショナルに報道した結果、ウェルテル効果を引き起こしてしまいました。
では、日本のメディアは自殺件数を減らすためにどのような報道をすればいいのでしょうか?
■WHOによる勧告から何を学ぶべきか
上記のことを踏まえて、WHOは「自殺予防 メディア関係者のための手引き」を発表しました。2000年に発表されたこの勧告では、メディアが自殺をどう報道する際の注意点がまとめられています。
日本のメディアもでもこれを基に報道をしていますが、徹底できているか疑問が残ります。
「自殺を問題解決法として扱わない」ことは、いじめ問題の報道の際に気をつけたいことのひとつでしょう。
いじめを受けている学生が、「自殺すれば救われる」と考えないようにするのもメディアの役目です。数年前から学生が自殺するニュースが後を絶たないのは、報道の仕方に問題があるからかもしれません。
また、日本の報道は遺族に関する配慮も欠けている可能性があります。事実、遺族へのインタビューや、自殺した方の卒業文集を報道することに対する批判をよく耳にします。
特に著名人やいじめによる自殺を報道する際には、遺族への配慮はもちろん、見出しのつけ方やセンセーショナルに報道しないことを徹底すべきでしょう。
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メディアがどこまで報道していいのかというのは、非常に難しい問題です。しかし、メディアが自殺の背景にあるものを決めつけたり、誇張して報道したりしてはいけないということは間違いありません。
(文/堀江くらは)
【参考】