タイトルが示すとおり、たしかに『話し方で、男は決まる』(櫻井弘著、フォレスト出版)は男性をターゲットとした書籍。
しかし内容に目を通してみると、そこに書かれていることの多くは、男女を問わずさまざまな人に訴えかけるものであることがわかるはず。そういう意味では、「大人のための」話し方メソッドであるともいえるでしょう。
ちなみに本書は、よくある「話し方本」のように、テクニックやスキルを重要視しているわけではありません。たしかに、それらも重要なこと。しかし現実的に、「あるもの」がなければ、身につけたスキルは活用できないというのです。それは、相手に対する「意識」。
「相手は自分になにを求めているのだろう?」「この話の目的はなんだろう?」など、相手の思いや考えを想像し、それを意識してコミュニケーションをとる(=相手の感情に気を配る)必要があるというわけで、十分に納得できる考え方です。
著者はコミュニケーションにおける「魅力(みりょく)」を、「三力(みりょく)」ともいいかえることができると考えているそうです。なぜなら魅力を上げるためには、3つの力が必要だから。
それは、「思考力」「行動力」、そして「言語力」だといいます。
■コミュニケーションに必要な「三力」
(1)思考力
たとえば相手になにかを説明するとき、「具体的な説明」ができなかったとしたら相手にははっきりと伝わりません、
つまり、具体的に説明するためには、「具体的な思考」が前提となっていなければならないということ。
そして同じように、肯定的に伝えるためには、「肯定的な思考」が必要になってくるもの。また論理的に話す必要があるときには、「論理的な思考」が前提となってくるでしょう。
つまり、しっかりと聞いて、話して、伝えるためには、「しっかり考える」、すなわち「思考」が前提条件になるということです。
(2)行動力
「考えてから行動するか?」「行動してから考えるか?」「考えながら行動するか?」「行動しながら考えるか?」
……なにか行動を起こさなければならないときには、行動する前につい、いろいろ考えてしまいがちです。
しかし現実的には、そんなことばかりを考えていると、相手や状況はどんどん変化していってしまうもの。
いいかたを変えれば、「行動力」は「スピーディーに」「速やかに」がキーワードになってくるということです。
そして、そのために重要なのは、考えながら行動したり、行動しながら考えたりするという「同時進行」。
いわば、「思考」と「行動」はセットになっていなければならないということです。
(3)言語力
またコミュニケーションという観点からすると、「行動」のなかには、口を動かす言語活動としての「口動」という行為も必要になってくるのだとか。すなわち、それが「言語力」だということ。
たとえば朝の挨拶であるにもかかわらず、ボソボソッと低い声で「おはようございます……」などと挨拶したら、相手から「朝っぱらから暗い声で挨拶してきて……感じ悪い」というマイナスの印象を抱かれても当然。それでは、コミュニケーションが成り立たないことになります。
■言語力・思考力・行動力が「大前提」
「気持ちは、態度や声に現れる」とよくいわれます。たしかに気持ちが暗ければ、声も暗くなりますし、お辞儀も暗い感じになるでしょう。
だからこそ、実際に「相手に確実に届く挨拶」をしたいなら、「言葉に心を込めて行動する」ことが大切だといいます。
そして著者はこのことを、「3つのコ」と呼んでいるのだそうです。それは「言葉(コトバ)」「心(ココロ)」「行動(コウドウ)」、すなわち「言語」「思考」「行動」だということです。
いってみれば、これら3つが揃っていて、なおかつバランスがとれていなければ、相手には伝わらない。しっかりとそう認識し、理解し、身につける必要があるわけです。
一例として、「謝罪」の場面を思い浮かべてみましょう。
たとえ「申し訳ございません!」とすまなそうに頭を深々と下げていたとしても、もしポケットに手を入れたままだったとしたら、相手は間違いなく不快感を抱くことになります。
なぜならそれは「言行不一致」の状態だからで、相手に不信感や不快感、懐疑心といったマイナスの感情を意識させてしまうわけです。
したがって、「言語力」「思考力」「行動力」の3つの力がバランスよく、しかも違和感なく相手に届いていることが、人間同士のコミュニケーションにおける大前提だということです。
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著者はコミュニケーションの原則に基づいた、日常の話し方・聞き方の指導を行う「話し方・コミュニケーション」の第一人者。そんな立場を前提として書かれているからこそ、本書には説得力があるのだともいえそうです。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※櫻井弘(2016)『話し方で、男は決まる』フォレスト出版