こんにちは。深沢真太郎です。
ビジネスパーソンを数と論理に強くする「ビジネス数学」を提唱する、教育コンサルタントです。
この記事を執筆しているのは2016年4月27日ですが、本日の日経新聞を読んでいて感心したことがありました。さすが、日経新聞の編集者さんはよく考えて記事を書いているなと。
記事に使う資料のなかで使っている数字のチョイスが、とても「読者想い」なのです。
■なぜC社だけ「3.3倍」なのか
今朝の日経新聞には、国内の自動車メーカーに関する記事がありました。
トヨタ、日産などが昨年度とくらべてどういう状況にあるのか、数字を使って説明している記事です。
いま、そのなかの3社をピックアップし、仮にA社、B社、C社としましょう。記事にあった数字をそのまま、一部だけ抜粋します。
<輸出台数の前年増加率>
A社:-1.4%
B社:-2.2%
C社:3.3倍
私が感心したのは、C社データの伝え方です。ご覧の通り、C社だけ「%」を使っていません。
いったいなぜ、C社だけ「3.3倍」という伝え方なのでしょうか?
■読者へのやさしさがつまっている
「えっ、そんなこと?」と思われたかもしれませんが、まあ聞いてください。
もし、私が預かる企業研修や公開セミナーなどで、このデータを新聞の読者にどう伝えるかを演習として課したら、おそらくほとんどの方がこう表記すると答えるでしょう。
<輸出台数の前年増加率>
A社:-1.4%
B社:-2.2%
C社:330.0%
その理由はおそらくこうです。
「A社もB社も「%」で表記しているのだから、C社だって「%」で表記するのが当然」。あるいは、「C社だけ『◯倍』という表記では統一感がなくて、なんとなく気持ち悪い」というところでしょう。しかし、残念ながらこの回答には「読者へのやさしさ」がまったくありません。
■大事なのは「身近な表現」か否か
増加率300%などという表現を、この1年で何回目にした(あるいは口にした)ことがあるでしょうか? ビジネス数学の専門家である私ですら、一度も口にした記憶がありません。
一方、3倍という表現はこの1年で何度も目にしましたし、口にしたこともあります。
要するに、申し上げたいのは「伝える側は、相手にとってなじみ深く、より身近な表現で伝えるべきだ。そのようなちょっとしたやさしさが、伝え上手か否かを決めるのだ」ということです。
■伝えるときはやさしさを込めよう
事実、私のセミナーにおいても「1.4%」は「ほんのちょっと」と認識できるけれども、「300%」と聞くと、一瞬「?」と思考が停止してしまう方がいます。
極端な例を挙げれば、「8%」は消費税の存在によりイメージできる数字ですが、「8000%」ではイメージしにくいでしょう。
人は、普段から使っていない表現で伝えられても、ピンとこないのです。「日経新聞の編集者さんはさすがプロだな」と感心した理由はそこにあります(決して上から目線で申し上げているわけではなく、心からの敬意です)。
このエッセンスは、ビジネスパーソンなら誰もが自分ごとにしなければなりません。
みなさんの伝え方には、「相手へのやさしさ」が込められていますか?
(文/深沢真太郎)
【参考】
※ビジネス数学の専門家 深沢真太郎 〜数字が苦手な人の救世主〜-YouTube
※深沢真太郎(2015)『そもそも「論理的に考える」って何から始めればいいの?』日本実業出版社