『大富豪が実践しているお金の哲学』(冨田和成著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は証券会社に勤めていた当時、多くの大富豪と交流があったのだそうです。
顧客である彼らの相談にのったりしながら、親密なコミュニケーションをはかっていたということ。
つまり本書ではそんな経験を軸に、大富豪の実態をつまびらかにすることによって、大富豪ならではの習慣や心構え、その根底に流れる「お金に対する哲学」を明らかにしているというわけです。
ちなみに本書でいう「大富豪」とは、純金融資産で1億円以上を保有する人のこと。これは日本の人口の約2%だといいます。
また、年収数千万円はあるものの純金融資産が1億円未満の人を「小金持ち」、それ以外を「一般人」としているそうです。
■節約するときの考え方の「差」
節約するとき、毎日の食費を削るのが一般人で、入った分だけ使い切るのが小金持ち。そして、大きな支出だけを抑えるのが大富豪なのだと著者は主張しています。
大富豪を目指すのなら、倹約の精神はたしかに必要。ただし、倹約だけで大富豪になる人はあくまでもレアケースだというのです。
なぜなら大半の大富豪は「消費より倹約」の精神を持ちつつ、「消費より投資」というマインドをさらに強く持っているものだから。
そこには理由があって、つまり過度な倹約は、将来的にリターンが期待できる支出まで控えてしまう恐れがあるということ。
40代、50代になってから倹約するなら仕方がないとしても、若い世代は投資の回収期間が長いだけに、細々とお金を貯めるのは効率が悪いもの。
つまり、大半の大富豪はお金を使うこと自体には積極的で、「それをいかに効果的に使えるか」を重視するというのです。
■大きな支出をコントロールする
だとすれば、支出を抑えるための極意のようなものはあるのでしょうか? 著者によれば、それはただひとつ。大きな支出をコントロールすること。
血眼になって、1円単位でお金を貯めたとしても、効果はきわめて限定的。
たとえば「今月はお金がピンチだから」という理由で、いつもは500円かけているランチを200円にしたところで、月に6,000円(300円×20日)しか浮かないわけです。
でも、その程度の節約をするため、安くて添加物満載のランチで健康を切り売りしながらお金を貯めるというのは本当に得策でしょうか?
だとしたらバランスのとれたランチを食べ、心身ともに健康体を維持し、仕事の集中力を高めて早く収入を上げたほうが、長い期間で考えれば利回りがよいと著者はいうのです。
体調を崩せば収入が途絶えますし、医療費もかかるわけですから当然といえば当然。
しかも、細々とした節約をする人に限って、平気で飲み会に参加し、タクシー代を含めて1~2万円使ってしまうこともあるもの。でも、「コントロールすべきはそこだろう」と著者はいいたいのだそうです。
■家計簿で交際費の多さに気づく
そんな著者は20代の前半に、家計簿をつけていた時期があるのだとか。目的は、自分の生活パターンを可視化することで、どこに大きな支出があるのかを確認するため。
その結果、出費の大部分は自分の目標にとって必要ではない交際費に使われることがわかったのだそうです。
もちろん、なかには大切な飲み会もあるでしょうが、そうやってフィルターをかけていくと、参加しなくてもいい飲み会が意外と多いことに気づくのだといいます。
そこで考え方を改め、無駄な宴席には出席しないと決めて、そのぶんのお金で本を買ったりスーツを買ったり、自分の仕事日雨ながる分野に投資していくことに。
すると、その成果はすぐ収入面に出て、振り返ればその判断は自分の成長にとっての大きなターニングポイントになったのだそうです。
■大局的な視点を持つことが大事
そんな著者は、節約を考える時に重要なのは「木を見て森を見ず」の状態にならないように大局的な視点を持つことだといいます。
もちろん、1円を粗末に扱わないことも大切。しかし、そこだけに注力するくらいなら、もっと効果的な節約手段を考えるか、もっとお金を稼ぐ方法を考えるほうが合理的だということ。
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こうした主張からもわかるとおり、著者が明らかにする大富豪の考え方は、「大富豪」という言葉が持つ一般的なイメージとはだいぶ異なります。
しかし、だからこそそこにリアリティと説得力があるのもまた事実。「大富豪だからものすごい浪費をする」という決めつけこそが間違っていて、基本的には堅実であることが重要だということです。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※冨田和成(2016)『大富豪が実践しているお金の哲学』クロスメディア・パブリッシング