お得なビールは400円?350円?本当の「価値」を見抜く方法

  • LINEで送る
2016.05.31

suzie.20160528

『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』(野口真人著、ダイヤモンド社)で著者が訴えているのは、「ファイナンス理論」の有効性。

それは本当の価値を見抜き、正しい選択をするために人類が産み出した究極の実学なのだといいます。

著者の言葉を借りるなら、ファイナンスとはすべての価値をお金に置き換える“現金な”学問。

その証拠に、ほとんどの金融商品・ギャンブル、あるいは詐欺までもが、「現金(キャッシュ)が持つ魔力」をうまく利用することによって成り立っているのだそうです。

つまりファイナンス理論は、それらのまやかしを見破り、“本当の価値”を見極めるためのシステム。

そして驚くべきは、ファイナンスの価値体系において、現金は「もっとも価値の低い資産のひとつに位置づけられているということ。

■お得なビールはどっち?

ところで著者は、読者に対してある質問を投げかけています。

「同じ銘柄のビールがコンビニAでは400円、隣のコンビニBでは350円で売られていたとしたら、この場合、お得な買いものは?」というもの。

当然のことながら、お酒好きの方は「コンビニBに決まっている!」と思うことでしょう。

しかし、ビールを飲まない人にとっては、「どちらも買わない」が正解であるはず。どうせ飲まないビールなら、買わないほうがマシだからです。

また、このビールが普段から300円で売られている商品だとすれば、どちらのコンビニで買っても損することになります。

この例からもわかるとおり、私たちは買いものや取引をする際、価格を見比べて損得を判断しようとするものです。

「こちらのほうが価格が安いからお得だ」「あっちのほうが価格が高いから、価値も高いに違いない」というように、価格同士の比較が価値判断の基準になっているということ。

しかし、価格だけを見くらべても、正しい判断はできないと著者はいいます。これは、ビールを株式に置き換えて考えてみると分かりやすいのだとか。

■株の「買い時」はいつ?

Q:昨日1,000円で取引されていたC社の株式が、きょうは700円で取引されている。きょう、この株は買うべきか?

株価だけを見れば、1,000円だったものが700円で買えるのですから、C社の株は「まさに買い時」ということになるでしょう。

とはいえ株式投資の経験がない人でも、ここで「買い」の判断をすることはないはず。なぜならC社の株は、700円よりももっと下がる可能性があるから。

では、どうすればいいのでしょうか?

この問いに対して著者がいいたいのは、「価格と価格を見くらべている限り、まっとうな意思決定はできない」ということだそうです。

700円、500円、100円のどの時点で買うにせよ、あるいは買わないにせよ、目に見えている株価だけを根拠にして判断する人は、単なるヤマ勘を頼りにしている点においては「同じ穴の狢(ムジナ)」だということ。

■「価格と価値」を分ける

だとすれば気になるのは、「正しく意思決定をするためにはどんな情報が必要なのか」ですが、いうまでもなく、C社株の本当の価値がわかればいいのです。

たとえば、「この株には本当は150円の価値しかない」とわかっていれば、1,000円から700円に下落した時点でも手を出そうとは思わないはず。逆に100円にまで下落したなら、迷わず購入を決めるはずだということです。

私たちはどうしても、価格という“目に見えるもの”に惑わされてしまいがちです。しかし本当の意思決定は、「価格と価格」を比較する世界から抜け出したところ、すなわち「価格と価値」の両方を見渡す視点からしか生まれないのだと著者は主張しています。

だからこそ、ファイナンス的な思考の第一歩は、価格と価値を分けて考え、価値の見極め(価値評価)に軸足を移すことなのだといいます。

原価や市場価格に注目する従来の考え方は、あくまでも「目に見えるもの」、端的にいえば価格に注目していることになります。「価格が価値を決める」という発想であり、いいかえれば価格中心の世界観。

対して、ブランドのような「目に見えないもの」を価値の源泉だと考えるのがファイナンス。「価値が価格を決める」という、“価値中心”の世界観でとらえようとするわけです。

お金が単なる尺度であり、それ自体が価値を決めるものではないのだとすれば、ファイナンスのほうが現実に即していると著者はいいます。

「数字は苦手」だという方も、抵抗を感じることなくすんなりと読める内容。未来に向けて新たな価値観を身につけておくためにも、必読の書といえそうです。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※野口真人(2016)『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』ダイヤモンド社

関連記事