社員教育に年間3000万円も費やす大人気企業の斬新な採用基準

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2016.06.12

suzie.20160610

『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』(大西雅之著、あさ出版)は、日本最大規模のインドア型テニススクールである「ノアインドアステージ」(以下ノア)の代表取締役による著書。

同社はいまも右肩上がりで成長を続けているそうなのですが、注目すべきは、社員教育に関するユニークな考え方です。

というのも、「社員教育にはできるだけ時間や人を投資する」ということが基本的なスタンスだというのです。

事実、同社は2015年に、年間3,000万円を社員教育に費やしているのだといいます。

ただし、最初からそういった考えを持っていたわけではなく、それ以前はむしろ正反対の方向性を目指していたのだとか。

端的にいえば、かつては成果主義にとらわれすぎていて、従業員の仕事を「成績」だけで評価し、「社員の幸せ」=「給料」と割り切っていたというのです。

しかしその結果、幹部社員6人が示し合わせて退社するという事態に。

■働きがいのある会社ランキング7位に!

いうまでもなく、これは企業にとって大事件以外のなにものでもありません。そこで、ここから考え方を方向転換。

社内外の研修に多大な投資を行って、積極的に人材育成をするようになったというわけです。

その結果、「従業員の離職率は7%、「働きがいのある会社ランキング」(GPTWジャパン)では、中小企業部門で7位(2013年度)にランクインしたというのですから驚き。トップの考え方次第で、部下はいくらでも可能性を伸ばせるということを立証してみせたといえるでしょう。

■「よい人材はなかなか集まらない」事実

手が回らない、採用をしても育てる自信がないなどの理由で、新卒採用に二の足を踏んでいる中小企業は少なくないはず。また著者によればテニススクールの業界でも、新卒の定期採用をしている会社は限られているそうです。

そんななか、ノアが新卒採用をスタートしたのは2011年のこと。積極的な出店のため人材の確保が急務なのだそうですが、新卒の定期採用に取り組んでみてわかったことがあるといいます。

それは、「よい人材は、なかなか集まらない」という事実。そこで著者は、採用の基準を次の2つに変更したのだといいます。

■ノアインドアステージの2つの採用基準

(1)「おもてなしの心を感じられる人材」であれば、テニス経験は問わない

ノアが重視しているのは、テニスのスキル以上に「人間性」なのだそうです。

このことに関するポイントは、「テニスのレベル」と「接客レベル」は必ずしも比例するものではないということ。

だとすれば、テニスのコーチングスキルは入社後に教えればいいのであって、採用時にはさほど重視する必要がないという考え方です。

逆に、いくらテニスが上手でも、「教えてやっている」と思い上がっていては、サービス業が務まるはずもありません。

だからこそ、「スポーツを通して、お客様に笑顔になっていただく」というビジョンに共感し、価値観を揃えることのできる人なら、テニスの経験はゼロでも構わないということ。

「テニス経験ゼロ」の大学生を採用の対象にして門戸を広げれば、それだけ可能性が広がるという発想なのです。

(2)「ほどほどの人材」を採用して、社員教育で育てる

ノアでは「おもてなしの心を感じられる人材」を求めているといいますが、おもてなしの心を「持っている人材」ではなく、「感じられる人材」としたことには理由があるのだそうです。

おもてなしの心というものは、入社時には持っていなかったとしても、社員教育によって身につけることが可能だから。

ここで引き合いに出されているのは、「人とホスピタリティ研究所」の高野登さん(元ザ・リッツ・カールトンホテル日本支社長)の言葉。

「地下鉄の優先席だけが空いていたと記、『いいや、座っちゃえ』という人たちをグループA、『必要な人がいないなら、とりあえず座ろう』という人たちをグループB、『ここは優先席だから立っていよう』という人たちをグループCとします。リッツ・カールトンは、グループCの感性を持った人や、それに近い感性の人たちを集めたい」というものです。

たしかに理想は、グループCの感性を持った人たちを集めることでしょう。しかし中小企業には、感度の高い人材は集まらないのが実情でもあります。

そこでノアでは、グループBの人材でも採用するのだそうです。

優秀な人材を採用できないなら、社員教育によって優秀な人材に変えていけばいいということ。

いまはおもてなしの感性が低かったとしても、継続的な社員教育を続けることによって、「サービス業に必要な感性を高めることができる」と考えているというのです。

大胆にも思える著者の考え方は、しかし理にかなったものでもあります。だからこそ、「従来の常識を、別の角度から捉えてみる」という意味でも、読む価値があると思います。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※大西雅之(2016)『社長! すべての利益を社員教育に使いなさい』あさ出版

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