社員の離職率が低下した企業も!掃除を自前で行う意外なメリット

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2016.07.16

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キレイなオフィスやトイレは、従業員のモチベーションを上げてくれます。では、キレイになりさえすれば、掃除は誰がやっても同じなのでしょうか。

今回ご紹介する一冊は、『掃除と経営 歴史と理論から「効用」を読み解く』(大森信著、光文社)です。

大阪商工会議所が行った「企業経営における『清掃、整理・整頓、清潔』に関するアンケート」では、掃除を自前で行っている企業と外注している企業を比較した場合、すべての項目において自前企業の方がモチベーションは高い、という結果になったそうです。

「売上が向上した(新規顧客・取引先の獲得など)」にいたっては、外注1.3%であるのに対し、自前12.7%と、なんと1ケタも違う結果だというのですから驚きです。

古くて新しい、21世紀の「掃除と経営」論を、著者の大森さんに詳しくお聞きしてきました。

■掃除は「必要なムダ」である!

現代のビジネスシーンでは、ムダは嫌われ者です。特に、経営学の主流とされるアメリカ型の企業においては、本来の業務に直結しない掃除など、ムダの最たるものだといえるでしょう。

大森さんの持論はこうです。

「掃除は“必要なムダ”だと考えています。たとえば企業が新しいビジネスにチャレンジしようとします。

が、『余裕がないとできない』という理由から、チャレンジしないことにします。その結果、さらに余裕がなくなっていき、じり貧の状態に陥ってしまいます。そんなとき、掃除は企業に余裕を与えるひとつのきっかけになりうるのです」

もう少し具体的にお聞きしてみました。

「自前掃除を導入してすぐは、反発も出るでしょうし、かなりバタバタすることが考えられます。それでもやらなくてはならないとなると、掃除の時間の捻出方法を従業員は考えはじめます。

そのためには、いままでの仕事のやり方の見なおしをせざるを得なくなり、その結果、仕事のやり方が改善されるのです」

「掃除ができない理由は、ビジネスのできない理由と似ている」という大森さんの指摘も興味深いものでした。

■掃除の導入で社員の離職率低下

本来の仕事でないことをやらされると、人は思索をはじめる、と大森さんはいいます。

効率ばかりに目が向いていると、掃除なんて時間とお金のムダだと早急に判断してしまいがちですが、大森さんは次のように指摘します。

「あまりにも早くムダとムダでないものを切り分けてしまって、本当はムダでないものを捨ててしまう危険があります」

いってみれば掃除は、ビジネスに即効性はないものの、長い目で見て必要なことを育てるのに適したツールということかもしれません。

実際に、大森さんが見てきた地方の企業は、掃除を導入することで、若手社員の離職率が下がったそうです。

掃除は決して楽しいものではありませんが、仕事と違って、成果が出やすいという利点があり、そこにおもしろさを感じる若手社員は少なくないようです。入社してすぐに仕事で成果を出すことは至難の業ですが、その点、掃除は気軽なもの。

いったん掃除に楽しみを見出すと、仕事で使っている道具にも愛着がわいてきますし、会社そのものにも愛着がわき、その結果、会社に貢献したい気持ちが出てくるのですね。

■掃除を重視する企業は海外にも

掃除と経営を結びつけた考えは、日本以外では受け入れられないのでしょうか。

掃除に重きを置いている海外企業はないわけではありません。たとえばアメリカ発祥のディズニーランドには、掃除に特化したスタッフがいます。

ただし、この掃除の目的は、「ディズニーランドという夢の国にはゴミひとつ落ちていない」というコンセプトに基づくものであり、掃除による自分磨きという側面はまったくありません。

ベルギー発祥のゴディバも、掃除に関しては並みならぬ教育と指導をするそうですが、食品販売の場である店舗の清潔さを保つこと以外に、掃除の目的はないといいます。

また、日本の歴代の名経営者のように、トップが自ら掃除をするということは、欧米の企業ではまずありません。

大森さんによると、欧米企業の掃除が「目的重視」であるのに対して、日本企業のそれは「手段重視」といえる、ということでした。

では欧米以外の企業ではどうでしょうか。

近年、海外産業人材育成協会(HIDA)が、日本企業が大切にしてきた掃除と経営の関係性についての講義を、新興国の企業経営者向けに行ったそうです。

初めは行動主導の掃除に対して冷ややかな受講生もいるそうですが、講義が終わる頃には多くの受講生が自社でも取り組んでみる、と宣言したそうです。なかには、宿泊施設内のトイレの掃除をさっそくはじめた人までいたとか。

■掃除活動は人をつなげてくれる

思想や宗教によって人々が結びついていた時代は終わりをつげ、多様性(ダイバーシティー)が重んじられる時代が到来しています。

企業という枠組みのなかで、出自も宗教も性的指向も異なる人たちがのびのびと実力を存分に発揮するには、彼らをつなぐなにかが必要で、ダイバーシティー教育を始めている企業も少なくありません。

大森さんはいいます。

「ある程度のダイバーシティーの進んだ企業には、思想による連帯は可能かもしれませんが、今後、さらに大きなレベルのダイバーシティーになると、ひとつの思想で人々を縛ることは難しいのではないでしょうか。

掃除は活動で人々をつなぎます。掃除に代わるプラクティスも探しているのですが、掃除を超えるものはなかなか見つからないのです」

実は「ビジネスの現場に自前掃除なんて古臭いのでは?」と思っていた筆者ですが、本書を読んで、すっかり考えが改まってしまいました。

これからの時代、持続可能な企業になるためには、「これをすれば大丈夫」ということはないかもしれません。けれど、掃除ならばたいしたコストもかかりませんし、職場はキレイになるのですから、損はないですよね。

(文/石渡紀美)

 

【取材協力】

※大森信・・・1969年大阪府生まれ。日本大学経済学部教授。上智大学経済学部非常勤講師。2001年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。

東京国際大学商学部助教授などを経て現職。著書に『トイレ掃除の経営学』(白桃書房)、『そうじ資本主義』(日経BP社)などがある。大阪紹介会議所「掃除でおもてなし研究会」座長。

 

【参考】

大森信(2016)『掃除と経営 歴史と理論から「効用」を読み解く』光文社

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