みなさんの上司は部下に仕事を任せるほうですか? その際に「君の判断に任せるから好きなようにやりなさい」といわれませんか?
株式会社アイリックコーポレーションの来店型保険ショップ『保険クリニック』が2016年4月に実施した調査によると、20代から40代の男性社員は以下のような仕事をする際に「やる気モード」スイッチが入ることがわかっています。
「失敗が許されない仕事に取り掛かるとき」
「大事な取引先へのプレゼンがあるとき」
「自社内の大事な会議で発表があるとき」
しかし、これらの仕事をするには、仕事を依頼したり承認する上司の存在があります。
仕事を任せられることは部下にとって大変栄誉なことですが、実は任せられる際に、抑えておくべきポイントがあるのをご存知ですか?
その2つのポイントを、具体的なケーススタディと一緒にお伝えします。
■上場企業のコンペ参加で大失敗したケース
まず、企業向けのPR誌やホームページなどを企画制作するプロダクションをS社としましょう。この会社の顧客は上場企業など大手企業が多く、企画・制作力は高い評価を受けています。
井上係長は社内の中堅社員です。5年前に出版社から転職し、現在のおもなミッションは、2名の部下との新規開拓活動。そんななか、部下が一部上場企業の大手飲料メーカーY社のアポイント獲得に成功しました。
部下に同行して会社を訪問したところ、多くの会社が会議室に通されていました。話を聞くと来年が創立30周年にあたり、会社案内やホームページを刷新するためコンペに参加してもらえないかとの話でした。
そこにいたのは約10社あまり。Y社は多くの会社が取引獲得を目論む有望企業だったのです。しかし、コンペの準備をするにも費用がかかります。
会社に戻り、井上係長は部門長である山中部長の指示を仰ぎました。すると山中部長は「そんな簡単なことを僕に聞かないでくれたまえ。君の判断に任せるから好きなようにやりなさい」と叱られてしまいました。
井上係長は迷いながらも、「君の判断に任せるから好きなようにやりなさい」という言葉を思い出しながら作戦を考えることにしました。
「よし、やるっきゃない。精一杯がんばるぞ!」と提案の準備を開始してコンペに備えました。ところが結果は失注。1回目、2回目のコンペは勝ち上がったものの、最終コンペで負けてしまったのです。
■上司は「好きにやれ」と言っていたのに!
最終コンペに進んだのは2社。あと一歩までのところでした。Y社の担当者からは「提案自体は御社の評価がもっとも高かったのですが、金額に開きがありました」との返答。
しかし、Y社との信頼関係を構築して提案の機会をいただけたことは、大きな自信へとつながりました。過去のデータを調べたところ、Y社に提案をしたのは井上係長がはじめてでした。
(山中部長からは「よくやった」と慰労されるに違いない)
そう思いましたが、山中課長の対応は予想と大きく異なりました。
「アホか! 負けたコンペに金をかけてもなんにもならないじゃないか」
「どう責任をとるんだよ。オレは認めないからな。コンペの費用はお前が払えよ!」
事前に相談すれば「君の判断に任せるから好きなようにやりなさい」といわれ、コンペに負ければ「どう責任をとるんだよ!」と責任を押しつけられる。井上係長は悩んでしまいました。
もし、仕事を受注していたらどうなったでしょうか。山中部長は「オレの任せ方がよかった!」と手柄を横取りしたことでしょう。なんとも理不尽に見えますが、これは会社における上司の「君に任せた」の本質ではないかと思います。
■上司に仕事を任せられたら言質を必ずとる
みなさんのなかにも、上司から「君に任せた」といわれた経験のある方は多いことでしょう。そのとき、どのような対応をしましたか? 結果はどうなりましたか?
もし「任せた」といわれたら、「YES」「NO」で答えをもらわなければいけません。
先ほどの井上係長の件であれば、「コンペに参加してよろしいですね?」と確認をして、「YES」「NO」をもらうところからはじめなくてはいけなかったわけです。
コンペにかかる費用が明らかになれば、これについても「YES」「NO」の判断をもらいます。つまり、言質をとらなければいけません。
こうすれば、上司も関与していることになりますから、責任を転嫁することは難しくなります。「そんなことは聞いていない」「オレは知らない」といわせないためのファクト(事実)を用意することが大切なのです。
これは、上司のコミットを明確化する作業のことを表しますが、必ずしも言質である必要性はありません。
まずはスケジュールを作成する上司であれば心配はいりません。スケジュールでは、仕事を進めるための段取りや流れをつくってもらい、「いつまでに○○をする」というように進捗を明確にしてもらうことです。
チェックをするとはその仕事にコミットをするという意味なので、任せられても心配は無用でしょう。
■自分の立場を危うくしない2つのポイント
いま、仕事の責任を転嫁させないために、次の2点が重要であることを説明しました。
(1)言質をとること
(2)スケジュールを組むこと
しかし、無用なコンフリクトを招くことは、組織運営上好ましいものではありません。そのためにも、週毎の定例ミーティング、中間報告(上司などを交える)、最終報告(事前に直属の上司の承認を得たうえで実施する)が必要です。
先ほどの、井上係長の件であれば、1回目、2回目の結果が分かった際に、山中部長を交えて打合せをする時間が必要でした。そして、最終提案の際にも同席を依頼すべきでした。まともな上司であれば、同席依頼をNOとは言わないはずです。
いずれにしても、上司のコミットを明確化する作業と、うまく巻き込むことができれば、結果がどうであれ自分の立場を危うくすることはありません。
(文/コラムニスト・尾藤克之)
【参考】