本格的な夏を迎えました。暑いこの季節、なにかとお酒を飲む機会が増えるかと思います。
この時期に、私自身も心がけていることがあります。それは、他人の悪口や誹謗中傷をしないこと。よく周囲の観察をしてください。どこの飲み屋でも人の悪口を肴に酒を飲んでいる人がいるはずです。
例えば、「社長の方針がすぐにブレる」「嫌な仕事ばかり押しつけやがって」「自分達はおいしい思いをしやがって」など……。肴にされる当人が在籍しない飲み会は、ことのほか盛り上がります。
ところが、他人の悪口や誹謗中傷は周囲の雰囲気を一変させる危険性もあります。
実際、インターネットリサーチサービス『リサーチプラス』が実施した「お酒・飲み会に関する調査」によれば、その場にいない人の悪口がはじまったとき33.1%の人が「一気にテンションが下がる言動」であると答えています。
そこで今回は、私が経験した事例と一緒に、悪口が話題になったときにうまくかわす方法をご紹介しましょう。
■留意すべき飲み屋での悪口と誹謗中傷
X社という業界でも有名な研修会社があります。いま、飲み会の場にいるのは、井出課長、岩下主任、山之内主任(すべて仮名)、と私の4名です。
まず、井出課長が「部長や上層部が方針をビシッと決めてくれないから、いつまでたっても部門のベクトルが一致しないんだ」と切り出しました。
これに、岩下主任と山之内主任も「そうっすね!」と相槌をうちます。会社批判、体制批判とつながり、飲み会は2次会、3次会へと移行します。酒が入るほどに批判は盛り上がっていきます。
ところが、日ごろのうっ積を晴らしたところで「参加者の関係が一層強固になる」ことなどありません。
翌日の朝、井出課長は部長の前で「おはようございます」と最敬礼。それに対して、岩下主任と山之内主任が「昨日はあんなに部長の批判をしていたじゃないですか」「3次会まで行って連携を確認したじゃないですか」と嘆くのは、ヤボというものです。
そもそも酒宴での上司批判や会社批判は、場を盛り上げるエッセンスみたいなもの。その場で聞き流すのがマナーで、本気にするほうがどうかしているのです。
■上司に言質をとられた2人の運命は?
岩下主任と山之内主任は上司である、井出課長に言質をとられてしまいました。井出課長が話を聞き流していなければ、少々面倒なことになります。岩下主任と山之内主任はこのような発言をしていました。
岩下主任:「僕たちは交通費ですら細かくチェックされているのに、部長は会社の経費を使いたい放題使っているって噂ですよ。飛行機はファーストクラスかスーパーシート。やってられないですよ」
山之内主任:「部長は銀座のMってお店に通っているようです。先日も高級バックをプレゼントしたって噂です。他部門の人から聞きました」
事件は次の週の月曜日に起こります。部門統括をしている鈴木部長から、2人は突然呼び出されたのです。
鈴木部長:「君たちが僕の悪口を言いふらしているという話を聞いてね。今日はその確認をしたかったんだ。僕が経費で、ファーストクラスを利用して、銀座のクラブのホステスに高級バッグをプレゼントしたという話を聞かせてもらったよ。君たちは、想像力がたくましいね」
岩下主任と山之内主任:「……」
鈴木部長:「なにも答えないのかね? ファーストクラスはお客さまの要望だ。得意先であるA社の社長同席でも文句があるのかね。あと、バッグに関しては、私の親戚が海外から並行輸入品を買いつけていてね。安く手に入ったので、お譲りしたのだが何か文句があるのかね?」
岩下主任と山之内主任:「……」
鈴木部長:「君たちは、僕の評判をでっち上げた情報で下げようとした。よって、懲罰委員会で君たちを査問することにする。総務部から連絡があるからその指示に従いたまえ」
賞味1時間ほど絞られた挙句に、翌月の査問委員会で訓告の処分を受けたそうです。
実は、井出課長は鈴木部長と大学が同じで先輩後輩の関係でした。鈴木部長は役員候補として名前が挙がっています。そのため部内の評判を確認するために、井出課長をつかって情報収集をしていたのです。
私は、当日は風邪気味で風邪薬を飲んでいたため、一切の飲酒を控えていました。そのため、難を逃れることができました。
■飲み屋での悪口と誹謗中傷のかわし方
先ほどのケースを思い出してください。私は飲酒を控えていたので、完全シラフです。
井出課長が「部長や上層部が方針をビシッと決めてくれないから、いつまでたっても部門のベクトルが一致しないんだ」と切り出しても、「私は部門の指示に従うだけですが、井出課長の会社を思う気持ちがよく理解できました。その気持ちにこたえられるように頑張りたいと思います!」と対応していました。
「ホント、部長は腹が立つよな」といわれても、「私にはそのことはよくわかりませんが、部長は会社のためを思って色々と頑張っておられます」と答えていました。
つまり、批判の内容には一切触れずに、私見を述べたり話をそらすことなく淡々と対応していたのです。
実際に、飲み会で上司や会社批判をすることで評価を下げる人は少なくないと思います。たとえ聞かれたとしても、話題や論評には一切加わることなく淡々とこなすようにしましょう。
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自分に自信があり仕事ができるの人物であるなら、他人の悪口や誹謗中傷はいわないものです。これにのってしまうということは、自らが未熟であると他人に公言しているようなものですから気をつけなくてはいけません。
(文/コラムニスト・尾藤克之)
【参考】