『超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』(ダイヤモンド社)の著者・杉野幹人氏は、米シリコンバレーで、そして外資系のコンサルタントとして、グローバルビジネスの第一線の人たちと仕事をしてきたという人物。
世界最高峰のビジネススクールとして知られるINSEADのMBAプログラムでは、世界60カ国から集まった次世代のリーダー達と一緒に学んだそうです。
そんななかで「伝えること」が傑出してうまい人たちと出会ったといいますが、彼らには共通することがあったのだとか。
それは、「箇条書きが抜群にうまい」ということ。
■忙しくて時間がないときこそ箇条書き
事実、外資系コンサルのプレゼン資料の最初のページに図やグラフはなく、十中八九、箇条書きなのだといいます。
理由は簡単。
クライアントの多くは企業の経営者なので忙しい、そして時間がない。だから図やグラフによる分析や背景を聞くよりも、要点をすぐ理解したい。
そのためコンサルタントは、伝えなくてはいけない要点を、短く、魅力的に伝える必要がある。そこで、その手段として、箇条書きが選ばれているというわけです。
■同じ内容でべた書きと箇条書きを比較
では、箇条書きにはどのような機能があるのでしょうか? それを知るために、ベタ書きと箇条書きを比較してみましょう。
【ベタ書き】
チェーンの牛丼はとても安くて、多くの人にとって買い求めやすいものだ。このため、お金のない学生であっても気軽にお店に入ることができる。そして、チェーンの牛丼はとても速くつくられて、速く提供される。だから、ビジネスパーソンにとっては、あまり時間がなくても、次に予定があっても気兼ねなく食事ができる。また、小さい子ども連れのファミリーにとってもありがたいだろう。待ちきれない子どももいるからだ。そして、チェーンの牛丼はとてもうまい。何度食べても飽きがこない。だから、朝に食べたとしても、夜にも食べることができる。
【箇条書き】
チェーンの牛丼のすばらしさは3つ。
(1)安い
(2)速い
(3)うまい
ベタ書きは情報量が多く説明もていねいですが、なかなか頭に入ってきません。しかし箇条書きはシンプルで、すぐ理解することが可能であるわけです。
■箇条書きで「10倍速く」伝わる理由
いわば箇条書きは、ベタ書きにくらべて文章量が少ないことが特徴。すなわち、情報量が少ないわけです。
つまり相手に届けることのできる情報量だけで考えれば、ベタ書きのほうが箇条書きよりも優れていることになります。
しかしベタ書きは情報量が多いだけに、相手がそれを処理しきれなくなる、すなわち読み切ってくれない可能性があるわけです。あるいは中途半端に処理され、「情報は届くが、意味は伝わらない」ということも起こりうるということ。
一方で箇条書きは、本来なら相手がすべき情報処理を、送り手が代わりに「短く」まとめています。ですから相手は情報処理が楽になるため、送り手の伝えたいことがより正確に伝わることになるのです。
箇条書きの機能を理解すると、「箇条書きを使うのに向く状況」と「そうではない状況」がわかるようになるそうです。
箇条書きが向くのは、相手に情報処理の手間をかけさせたくないとき。相手が忙しい場合などがそれにあたり、たとえば目上の人への報告などがその典型。
また売り込みのプレゼンテーションなど、相手がこちらに対してあまり関心を持っていないときにも効果的なのだとか。
■要点を「3つにまとめること」が大切
ところで経営コンサルタントは「なんでも要点を3つにまとめる」とよくいわれるのだそうです。
ただし重要なポイントは「3つ」ではなく、2つでも4つでもよいのだとか。
いってみれば大事なのは「まとめること」、短く、箇条書きにすることだというわけです。
経営コンサルタントが向き合うのは、時間に制約がある忙しい人たち。
そのため、情報処理の負担を減らすことができる箇条書きで伝わることが求められるということ。
■相手が勉強家だと箇条書きが向かない
しかし、逆に箇条書きが向かないときもあるといいます。
相手が情報処理の負担をいとわない場合は、箇条書きよりもベタ書きのほうが適しているわけです。
相手は勉強家で、時間もあり、熱心に読んだり聞いたりしてくれるときには、情報量の多いベタ書きのほうが伝わるということ。
また学んで実行に移そうとしてくれる相手には、あえて箇条書きにまとめず、じっくり時間をかけて説明することもあるでしょう。
箇条書きとベタ書きは対立するものではなく、場面や相手に応じて使い分けるものだということです。
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実際に目にしてきた多くの実例がベースになっているだけあり、著者の主張には強い説得力があります。本書を参考にしながら箇条書きを取り入れてみれば、ビジネスがよりスムーズになるかもしれません。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※杉野幹人(2016)『超・箇条書き―――「10倍速く、魅力的に」伝える技術』ダイヤモンド社