日中関係が過去最悪ともいわれるほど緊張していますが、「本当にそんなに仲が悪いの?」という純粋な疑問を口に出せないでいる人は少なくないはず。
そこでぜひ読んでいただきたいのが、『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(趙海成著、小林さゆり訳、CCCメディアハウス)。
私自身、「日中関係が緊張していようが、個人間の関係については話が別」だと思っているのですが、その考え方を裏づける回答が、ここにはあります。
反日デモの激化から1年を経た2013年秋に、『在中日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由(在中日本人108人プロジェクト編)という本が話題を呼んだことがあります。
文字どおり、中国に住む108人の日本人の声を収めたもの。本書はそれと対になるもので、「在日15年以上で日本をよく知る21人の中国人」の本音が浮き彫りになったインタビュー集です。
◼︎日本に住む中国人の本音とは
著者の趙海成氏は、北京出身。日本への留学経験を経て、初の在日中国人向け中国語新聞『留学生新聞』初代編集長を10年間勤めたという実績を持っています。
現在は、北京を拠点に日中間を行き来しながらジャーナリストとして活躍しているそうですが、そんな人だからこそ聞き出せたに違いない、在日中国人の本音には、とても大きな説得力があります。
特筆すべきは、彼らが考えていることは、私たちがマスコミから「一方的に聞かされて」いる中国人のイメージとはまったく違うということ。
もちろん、日本人にいい人と悪い人がいるように、中国人にも悪い人はいるでしょう。
しかし少なくとも、「全員が悪い人であるはずがない」という、よくよく考えてみれば当たり前すぎることについての根拠を強く感じ取ることができるのです。
◼︎心を打つドラマの数々が!
日本への留学を契機として、お金も経験もない状態のまま、28歳で中国人留学生のドキュメンタリーを撮り始めた女性。
騙されて来日してホステスを経験したのち、日本人と結婚。出産後に託児の難しさを痛感したことから託児所を運営することに決めた女性。
禅寺で苦学を経験し、現在はNHKで活躍している男性ディレクター。各人の人生には、ひとつとして同じもののない、心を打つドラマがあります。
なかでも個人的に印象的だったのは、27年にわたり新宿・歌舞伎町で生きてきた「歌舞伎町案内人」の李小牧さん。2014年に日本へ帰化し、先日の統一地方選に立候補して話題になった人物です。
残念ながら落選してしまいましたが、新宿で生きてきた生命力の強さと人間的な魅力は、読む側にも共感を与えてくれます。
「俺はぜったいに歌舞伎町を離れない。ここは俺を出世させてくれた場所、そしてきっと俺の墓場になる場所だから」(38ページより)
政治のことにも中国のことにも興味がないという方は、決して少なくないかもしれません。しかし読んでみれば、必ず感じるものがあるはずです。
(文/印南敦史)
【参考】
※趙海成(2015)『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』CCCメディアハウス