タイトルからもわかるとおり、『よのなかを変える技術: 14歳からのソーシャルデザイン入門』(今一生著、河出書房新社)のメインターゲットは10代の少年少女。
しかし著者がここでテーマにしている“ソーシャルデザイン”が、選挙や政治家に頼らず、民間で苦しみを解決していく新しい仕組みづくりであるなら、そこには世代を超えた価値があるはずです。
きょうはそのなかから、ちょっとした行動が社会を変えるという事実を紹介したコラム「9歳の小学生でも、多額の寄付を集められる」に焦点を当ててみたいと思います。
■イギリスの9歳の女の子の決断
2012年、イギリス・スコットランド地方の公立小学校に通っていたマーサ・ペインという当時9歳の女の子が、学校給食を写真に撮ってブログで公開しました。
なぜなら、1食あたり2ポンド(約250円)の給食は粗末で、とても満腹になれる量ではなかったから。
そこでこの子は、現実を多くの人に知ってもらおうと思ったわけです。
すると、ブログを見た多くの人たちがツイッターで拡散したことから、イギリスのみならず世界中で話題になり、新聞にも掲載されることになりました。
ところが校長先生から、「給食の写真を取ることは禁じる」といわれてしまったのだとか。
■校長先生に世界中から反発が!
しかし、そもそもマーサさんがブログを始めたのは、「開発途上国の子どもたちに食糧を支援している慈善団体の募金集めに協力したい」という思いがあったから。
つまり給食の写真をブログに載せられなくなると、募金も集まらなくなるわけです。そこで、そのことを嘆く記事を書いたところ、校長の命令に対して多くの批判が寄せられることに。
そんなこともあり、学校側もマーサさんの主張を認めざるを得なくなったのだそうです。
そして結果的に、マーサさんが目標としていた7,000ポンド(約85万円)をはるかに超え、募金額はなんと12万6,701ポンド(約1,700万円)も集まることに。
マーサさんはこれを慈善団体に寄付し、アフリカのマラウイに学校給食の調理場が建設されることになったのだそうです。
■やり方次第で常識は変えられる
このエピソードは、学校という小さな組織で起こっているおかしな命令も、やり方次第で覆せるという事実を証明しています。
もちろんこのケースは策略的なものではなく偶然だったわけですが、そうにしても、納得できないことをネット上で公開すれば、社会という大きな枠組みのなかで共感者を得ることができるということ。
このことについて著者は、「イギリスの9歳の少女でも実現できたことが日本人の中学生にできない理由はない」と記しています。
が、それは同時に、大人についてもいえることではないでしょうか。
(文/印南敦史)
【参考】
※今一生(2015)『よのなかを変える技術: 14歳からのソーシャルデザイン入門』河出書房新社