『スープを売りたければ、パンを売れ』(山田まさる著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、20年にわたりPRを使った企業のマーケティングをサポートしてきたという人物。
本書ではそのような実績に基づき、会社やお店を際立たせるユニークな「売り方」についての考え方を明かしているわけです。
ユニークなのは、「なのに」「ずらし」「組み換え」「つかみ」「仕組み」という観点から売り方を捉えている点。
きょうはそのなかから、気になるタイトルにも関連する「ずらし」に注目してみましょう。
いま、お金をかけないPRが注目されているので、この売り方をヒントにすれば広告宣伝費が下げられるかも?
■山田さんの言う「ずらし」で売るとは
まず、商品やサービスを世に送り出すときには、「お客様にこう使ってほしい」と想定しているシーンがあるはず。
ところが実際、ユーザーは送り手の想像以上の楽しみ方や使い方を見つけ出すことがあるもの。だから、そこに着目すべき。
つまり商品を提供する企業やお店が想定する、当たり前からの「逸脱」、それが「ずらし」で売るという考え方なのだそうです。
基本的な使い方を押さえたうえで、前後・左右・斜めに使い方を「ずらし」てやることで、商品やサービスが提供できる価値をふくらませることができるということ。
■この「ずらし」で売ったカップスープ
そこで、スープのお話です。
実は、味の素の「クノールカップスープ」が2010年から3年間実施した「つけパン」「ひたパン」キャンペーンの背後には「ずらし」の発想があるのだとか。
2007~08年ごろ、日本の多くの食品メーカーは原料の高騰に苦しみ、製品の大幅な見なおしに取り組んでいたのだといいます。
それまでクノールカップスープは品質をアピールしていたのですが、それでも売り上げが伸びなかったため、発想を転換したわけです。
■“わくわく感”を売り方の中心にしよう
そんななか、チームメンバーから出たのが、「ディップ・スタイル」という提案。こんがり焼いた食パンを切ってカップスープにつけるという、ユーザー調査から見つけた食べ方です。
そこで東京近郊の5店舗で「ディップ・スタイル」の店頭販売を行なったところ、予想以上に大好評。その結果、大きな話題を呼んだ「つけパン」「ひたパン」キャンペーンが誕生したという流れなのです。
それまでの品質へのこだわりを訴える広告を変え、ユーザーがどのようにカップスープを楽しむのか、その“わくわく感”を売り方の中心に据えたわけです。
「つけパン」「ひたパン」キャンペーンのユニークなところは、クノールカップスープが考えていた「行儀のよい食べ方提案」ではなかった点。
主役のスープを脇役にし、「行儀が悪い」という非難を覚悟のうえで、朝の食卓でユーザーが楽しく、にぎやかにパンとスープを食べる姿を大切にしたということ。
スープを売るのではなく、むしろパンを売るという「ずらし」の発想が、成功を実現したわけです。
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このエピソードの他にも、ユニークな考え方が満載。売ることで悩んでいる人には、大きく役立つ一冊だといえます。
(文/印南敦史)
【参考】
※山田まさる(2015)『スープを売りたければ、パンを売れ』ディスカヴァー・トゥエンティワン