店舗や厨房のスタッフ、工場のライン勤務など、立ちっぱなしの姿勢で働かなくてはならない職種は意外と多いもの。でも「まだ若いし、休憩をとれば大丈夫」なんて思っていませんか?
以前、パソコン作業など長時間座ったままの姿勢で仕事することが肩こりや腰痛、眼精疲労、頭痛を引き起こすと話題になりましたが、今度は立ち仕事の危険に注目が集まっています。
さっそく、健康関連のニュースを扱う『Medical News Today』を参考に、詳細を見ていきましょう。
■若くても筋肉疲労に用心すべき
現在、世界の労働者のほぼ半数が、一日の4分の3以上を立ちっぱなしの姿勢で過ごす仕事に就いているといわれます。
実は、座りっぱなしよりも立ちっぱなしによる問題の方が、世界的にみると大問題なのです。
このほどスイス・チューリッヒ工科大学の研究チームが行った研究の結果は、「長時間立ちっぱなしの姿勢は、慢性的な筋肉疲労やこむら返り、腰痛を引き起こし、仕事の内容や効率にも悪影響を及ぼす」というもの。
筆頭著者のマリア・ガブリエラ・ガルシア博士は「労働での長時間立ちっぱなしによる筋肉へのリスクは、労働者本人だけでなく会社や社会にとっても深刻な問題です」と話します。
ガルシア博士らは、男性14名、女性12名を若年グループ(18~30歳)と中高年グループ(50歳以上)に分け、5時間立ちっぱなしで働いた場合で実験。この間、座ってよいのは5分以内の休憩数回と30分の昼食休憩のみとしました。
また実験後は、電気で筋肉に刺激を与え、筋肉の反応によって疲労の程度と姿勢の安定性を計測。体調についての聞き取り調査も併せて行ないました。
実験の結果、被験者は数回の休憩をとっても筋肉の慢性疲労が回復しないことが判明。疲労回復には30分以上の座った状態での休憩が必要であること、慢性疲労の程度には年齢による差がほとんどないことも証明されました。
■慢性疲労の症状は自覚しにくい
しかし、立ちっぱなしによる慢性的な筋肉疲労は軽視されているのが現状です。
理由のひとつは、最初の自覚症状である“疲労感”のあいまいさ。研究では、5時間の立ちっぱなし労働後30分以上の休憩をとってから行なった聞き取りで、疲労度の数値と被験者本人の感覚に矛盾が浮かび上がりました。
被験者が「もう疲れは取れた」と答えたにも関わらず、筋肉疲労の数値は改善していなかったのです。
ガルシア博士は「立ちっぱなし労働後の慢性疲労は、本人が気づくかどうかに関わらず存在する」と指摘します。自覚がないまま筋肉疲労がたまっていけば作業の効率が落ち、集中力も低下。その結果、ケアレスミスを招いたり、労災事故を引き起こすことにもなりかねないわけです。
また、症状の深刻化も問題です。オーストラリア・シドニー大学の研究チームは、ことし2月に“立ちっぱなしやぎこちない姿勢での長時間労働は腰痛リスクを8倍に高める”とする研究を発表しています。
カナダ労務健康安全局(CCOHS)によると、立った姿勢での労働が続くと腰痛や筋肉疲労だけでなく、足の痛みやむくみ、下肢静脈瘤、首や肩のこりなどさまざまな症状になって表れるというのです。
■立ち仕事+手作業はもっと怖い!
同じ足に体重がかかったままであることが、いちばんの問題。座って休憩をとるのが難しくても、定期的に足踏みや屈伸をしたり、周囲を軽く歩き回ったりするだけでも効果はあります。
その程度の動作が可能なら、ぜひ10分ごとなど時間を決めて実行を。軽い運動は気分転換にもなり、集中力低下を防ぎます。
また、立った状態で手作業をしている人は要注意!
頭の重さは約5kgで、首と背骨に負担をかけています。頭を傾ける角度が増すにしたがって首と背骨にかかる重さも増え、30°傾けると5kgだったものが18kgにもなるのです。
立った状態で手元作業をする場合、頻繁に頭を上げることも必要です。
立ち仕事はひとつの作業が数秒から数十秒単位であることも多く、ルーティンで続けてしまうものですが、意識的に軽い運動をすればリスクも大きく減らせます。
“ちりも積もれば山となる”で軽い運動をこまめに行い、なるべく体に負担をかけないよう工夫してみましょう。
(文/よりみちこ)
【参考】
※Prolonged standing at work can cause health problems too―Medical News Today